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緊急指令!エドワード・エルリックを守れ!

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「ハボック、車の用意を」
「イエッサー……」
もしやオレって貧乏くじかともハボックは思うのだがそれはそれ、ロイの警護は自分の職務だからして断るのも筋が違うしと、くわえ煙草のままはハボックは少々お待ち下さい準備してきますっと他のロイの部下の面々と一緒に執務室から出て行った。出ていく際に大総統執務室の扉の前にて警護にあたっているそのほかの護衛官達に向かって「大総統は本日は官邸にご帰宅だ。……そして今日からは内縁の妻っつーやつとその弟が大総統官邸に同居することになるから警護官の増員、人員の配置は再度アルフォンス・エルリック少尉と打ち合わせしておけよ」と連絡するのも忘れなかった。このこと自体は確かに軍人としては適切な指示だった。けれど、この言により、司令部内は上から下への大騒ぎとなった。結果的に騒ぎを拡大したのかもしれない。まあ、どのみち騒動など起きざるを得ないのだからと、それにはあえて気がつかないふりというかまあもはや一々関与していられないとばかりに、マスタング組のメンツはそれぞれに自分の職務の身を全うすることだけに半ば無理やり精神を集中させていった。


「……さて、エドワード?」
艶やか過ぎるほど艶やかな笑顔をロイはエドワードに向ける。思わず「う、」と漏らし、エドワードが真っ赤になった隙にロイはさっさといわゆるお姫様だっこでエドワードを抱え上げた。
「では帰るとしようか私の花嫁」
「だっだだだだだだだだだれがハナヨメだあああああああああああああっ!」
「ホークアイの指示があっただろう。派手に、恋人らしく帰れと」
「だからなんだよっ!!」
ホークアイの指示には未だになんとなく逆らえないエドワードだった。すでに軍属ではないのだから上官でも部下でもないだが、そこはそれ精神的な弱肉強食というべきか逆らうほうが恐ろしい目にあうとすでに精神にインプットされている状態で。けれど指示だからと言って大人しく従いたくもないというわけで。結果ロイに対して不貞腐れた態度をエドワードは取り続けた。無論、ロイと一緒に暮らすということに対して100%嫌だとは言い切れない甘さもエドワードにはある。はっきり言って嬉しいという気持ちは少しばかりあるのだ。けれどそれを上回る感情もある。そう、恥ずかしいのだ。ロイと同居ということはそーゆー関係だと周囲の者たちに知られるというわけで、しかもロイと一緒の寝室で生活。し、寝室……で一緒のベッドに寝ていれば健全に寝息を立てて安眠の日々なんて送れないことは身に沁みるほどに分かっている。そしてその状況でアルフォンスも同居するのだ。ロイの寝室で繰り広げられる寝台遊戯気がつかない弟ではないのだ。聡い、というべきか護衛官としての職務を全うしているというべきか。ともかく兄が弟に寝室の事情の欠片でも知られることははっきり言っていたたまれない。ロイが好きとか嫌いとか一緒に住みたくないとか住みたいとかそーゆーこととは別問題だ。それに新大総統であるロイが男の自分と同棲したなんてことが知られたら、それは大きくマイナス評価なのではないかとの懸念もあるのだ。なのに皆そんなことはスルーでとっととサッサと一緒に住むのが当然と言わんばかりのこの状況。ちょっと真っ当に考えてみろよ、オレとロイが恋人どうしてその……大人のお付き合いをして……で、同棲なんて…ど、同棲なんて一般常識に照らし合わせてもおかしいとか思わないんかよ。法改正ってのを止めたのは経費だとか時間とかの節約のためってだけで……誰も男同士でおかしいなんて突っ込まないのは何故なんだ。おかしいだろ?ふつー止めないか?一国の大総統の恋人が男ですなんて。なのに何みんな当たりまえのようにオレとロイを一緒に住まわせようとするんだよ。ああ、もうこれでいいのかアメストリス。ホムンクルスによる軍事国家の体制を一変させた後はロイと愉快な仲間たちのお笑い民主国家に路線変更なんて洒落にもならねえぞ。あーもー……とエドワードは一人で延々と悩んでいるわけなのではあるが、そんな状況今更でしょ?とアルフォンスならば突っ込みを入れたであろう。ロイがエドワードに手をつけたことなど表沙汰にはなってはいないが軍部で知らぬものなどいないほどの公然の事実だったりするのである。エドワードの恋人がロイ・マスタングということは皆知っている。エドワード・ストーカー達によるロイへの誹謗中傷文は毎日のように司令部に届けられる。ついでにそこまでロイを目に敵にしておらずとも、あわよくばエドワードをモノにしたいな~など隙を狙っている有象無象も溢れている。ロイが一瞬でも隙を見せればあっという間にエドワード争奪戦が起こるという状況を知らぬは本人ばかりなりなのである。だからロイとアルフォンスの苦労も並ではないのだ。もー面倒だ、兄さんの世話なんか大総統に任せちゃいたいな☆少なくとも兄さんは兄さんで自分の状況自覚して、警備のしっかりした官邸にひきこもってくれたらいいのにな~っと、アルフォンスですら思っているのだ。けれどロイとの結婚をさせるのが本来の目的ではない、単なる手段だ。弟としては兄が無事であるのならそれで万事おっけーなのだ。まあ、ロイにとっては逆なのだということもアルフォンスは当然承知だが。ともかく手段と目的の違いはあれどロイとアルフォンスのもくろみは一致しているのである。が、その客観的な現状を親切に伝えてくれるような者は幸か不幸かいなかった。エドワードはこんな状況にもかかわらず、ロイとの関係がばれないようにと細心の注意を払っているつもりでいるのである。いちゃいちゃいちゃいちゃ公衆の面前でバカップルモードをさらせるか恥ずかしいっつかロイの足を引っ張るだろ、と勘違いも甚だしい。だが、ロイと恋人ですなどと公言するだけでも顔を赤に染めてしまうエドワードではまあ致し方ないのかもしれないのではあるが。初々しいというか長年ロイとつき合ってきているのにロイと同棲くらいで赤面するなと突っ込みを入れてやりたくもあるが。まあ、エドワードにも可能なことと不可能なことがある。派手にいちゃつきながら帰れなどと言われても。はっきり言って冗談じゃない。そーゆーのは二人っきりの時だけでいいんだよ、とまあそんな本音が零れる時点で語るに落ちているのだが。エドワードはぶつぶつぶつぶつロイへと文句を言い続けた。が、その程度で懲りる男ではロイではない。
エドワードを恭しく抱きかかえたまま、そして大総統であるからして当然ぞろぞろと護衛官を引き連れてハボックの用意した車に乗り込んだ。

エドワードも大人しくロイの腕に抱えられたままでは居たくなかったのだが、じたばたと暴れてもロイは決してエドワードを離そうとはしない上に暴れれば暴れるほどギュッと強く腕の中に閉じ込められてしまうのだからもうここは耐えるしかない、チクショウ待ってろ官邸に着いたら絶対殴ってやるぞと心の中で決意を固めるしかなかった。