ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
終焉
王国軍が体勢を立て直す前にハイランドに攻め込む、とシュウは提言した。
ナナミの死によりかえって決意を強くしたヒナタは全ての争いのもとを断つべくハイランド侵攻の命を下した。
シュウは準備を整える為、広間を出て行く。
ヒナタもシュウに続き広間を出るが、ふらりとその場に倒れこんだ。
そしていつもの光景を見る。
倒れた時はいつもだった。
ジョウイの姿。
ジョウイがグリンヒル攻略に名乗りを上げる。
落とした褒美としてジル皇女をもらいうけたいというジョウイ。
ハイランドの騎士としての儀式で命を賭けてアガレス王を暗殺する様子。
ルカの死後ジルとの結婚により皇王となるジョウイ・・・。
そして今は獣の紋章に誓いを立てる儀式で、実は人形であるジルにナイフを突き立て兵士達の士気をあげている様子が見える。
最初の頃はただの夢だと思っていた。
だが今では分かる。
これは紋章の半身が見せるもう片方の紋章の持ち主の姿だ。
という事はジョウイにも自分の様子がたまに見えていたんだろうか・・・。
そしてジョウイも自分のように命を削って戦っているのだろうか。
その後、ヒナタの”行こう・・・ルルノイエへ!!!”という合図により同盟軍は勝どきをあげて出陣した。
敵将はレオン・シルバーバーグ。
シュウとビクトールの手勢が残り、ヒナタたちは王国軍に向かって突撃していく。
レオンはシュウが何らかの策を用意していることを悟った。
だがシュウは絶対に自分は安全牌におくはずだからと、森に伏せていたシュウの軍に突撃していく。
そこにビクトールは火を放った。
シードとクルガンはいち早く気付いて隊を引かせ戦場を後にした。
業火に包まれる森の中でシュウはレオンに再会した。
まともな策ではあなたは敗れない、とつぶやくシュウにレオンは才がありながら情に流されるクズだ、と自らをも危険にさらすような策を弄したことに怒りをぶつけ、去って行った。
焼かれた大木が次々倒れていく。
焼け落ちていく森の中で一人シュウは佇んでいた。
・・・そうだな、俺は才ある者としてはクズかもしれん。
だが・・・俺は間違ってはいなかったと今でも思う。
・・・ヒナタ・・・お前のお陰なんだろうな・・・この俺がこんなバカな策を弄するようになったのは。
その時ビクトールとヒオウが助けにきた。
「おう、良かった、無事だったんだな。」
「まったく、そんな軽い火傷で済んだなんて奇跡だよ。憎まれっ子世に憚るだよね。」
「・・・お前たち・・・。」
「ほんとやめてよね、まだヒナタにはあなたは必要なんだからね、軍師殿。僕みたいな思いはさせないであげてよね。」
ヒオウの軍師マッシュは戦いのさなか命を落としていた。
「それにしてもビクトールの放火癖は治らないね?」
「いや待てヒオウ。俺は別にこれは癖じゃねえっ。」
「えー?昔も山賊達を助ける為とはいえ放火してたじゃない。」
「だから今も昔も誰かを助ける為じゃねえかっ。」
炎に包まれるなか、呆れるくらいの軽口をたたきながらシュウを守りつつ脱出を果たした。
シュウのした事を知ったヒナタはバカっと一言罵ったあと、ニッコリし、無事で良かった、今度こんな事勝手にしたら許さないからなと言った。
そして同盟軍はミューズとハイランドの関所で休息をとった後、最後の戦争に向かった。
迎え撃つ王国軍は必死で皇都を防衛するが同盟軍の突撃は止められなかった。
ユーバーは戦況を見てすばやく退却した。
多分姿自体消しただろうと思われた。
王国軍の防衛網を突破し、同盟軍はルルノイエ内部に突入した。
後はルルノイエを落とすだけとなる。
ヒナタは共にきていたヒオウを含めた精鋭達とともに街を駆け抜けて王城をめざす。
再会したルシアはまた強くなっていた。
今日も三日月刺さってるよ、と言われさらに腹を立てていたルシアを倒す。
彼女は、テレーズが言ったルシアを信じるという言葉に押し黙り、ヒナタ達に道を開けた。
更に進んでいくと扉の前にゲンカクの親友だったというハーン・カニンガムが立っていた。
そしてここは通さぬ、とゲンカクの息子ヒナタに一騎討ちを挑んだ。
受けてたつヒナタ。ヒオウは何も言わず止めもしなかった。
ハーンに打ち勝ち、先に進む。
王家の居室の前にシードとクルガンがいた。
2人は通さない為、と戦いを挑み倒れる。
だが最期のときまでハイランドに仕え国を守っていたことに満足し、死んでいった。
そしてとうとう皇王の間の前までやってきた。
そこにはレオンの姿があった。
レオンは何を考えたのだろうか。
ミューズ市民を生贄にして生み出された獣の紋章の真の姿、シルバーウルフを自らの血をもって召還した。
それをも何とか倒した時、戦いの影響だろうか、城が崩れはじめた。
ヒナタはそれでもジョウイを探そうとした。
だが皇王の間にはジョウイのコートだけが残されていた。
ヒナタはジョウイのコートを手に取る。
・・・ジョウイ・・・。
君はなぜこの場にいない・・・?
あれほど皆が命をかけて先へ進ませないようにしたんだよ?
君は・・・この場にいなくてはならなかった。
ここにいないという事は、多分、あの場所だろう・・・。
でも、なぜここにいなかったんだ・・・。
ギュッとコートを握り締めるヒナタの肩をヒオウがそっとたたく。
城はもう持ちこたえられない。脱出しよう、と。
王城の外では崩れ行く城を見て誰もがヒナタ達の身を案じていた。
無事脱出してきた彼らを見て、大歓声が起こった。
・・・長きに渡る戦いは幕を閉じた。
皆は本拠地に戻る。
とりあえず皆本当に疲れているだろうからと当日はそのまま休む事になった。
翌日、広間に都市同盟すべての市長が揃う。
テレーズが言った。
ハイランドは敗れたが、北のハルモニア神聖国が存在しておりこの地はまだまだ完全な平穏を得たわけではないと。そしてシュウがヒナタに予想していた事を言った。この地に国を建てて欲しいとの頼み。各市長達も大賛成で皆がヒナタに決断を求めた。この地に国をうち立てる。それは確かに必要な事だろう。
ナナミの命さえもかけた場所だ。
・・・だが・・・。
「・・・みんな、もうちょっと、僕に時間をくれないかな?」
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ