ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
領袖
「ねえシュウ。僕はいずれ王様やめるよ?」
執務室で仕事をしていた時、ふいにヒナタが言った。
シュウが顔を上げる。
「急に、何だ?」
「え?そういやこんな話まだしてなかったなーって思ってさあ。僕が就任?してもう何年になる?5年?6年?そろそろ国も落ち着いてきたかなあって思ってさ、そしたらさ、そういや僕っていつまで王様でいればいいんかなって、ね。」
「・・・いつまででもいればいいと思うが・・・。」
「だめだよ。シュウ、忘れた?僕は年、とらないんだよ?」
「・・・忘れる訳ないだろう?目の前にあの頃とまったく変わらないお前がいるんだからな。」
あの頃すでに大人だったシュウは特に見た目があまり変わらない。
だが自称15歳だったヒナタはもう成人している筈の歳だ。
なのにここにいるのは相変わらず小柄で幼さの残った少年であった。
「あは、そうだよな。・・・だからさ、シュウ。僕がいつまででも王様でいる事は実際無理な事じゃないけど、それじゃだめだと思うんだ。そんなんじゃ独裁政治だよ。未来永劫同じ王様なんて・・・。ああ、ハルモニアはそうだっけ?でも僕はこの国をあんなとこみたいにするつもりないし。」
「・・・。」
「だからさ、いずれ僕はやめようと思うんだ。僕がやめたらさ、次、シュウがやる?」
「冗談。わたしは昔言ったように、上に立つ人間ではない。・・・まあお前が言いたいことは分かった。・・・そうだな、いや、王様はこの先もずっとお前ただ一人だ。」
「は?僕の言ったこと分かった上で言ってんのか?」
「まあ聞け。次は隣のトラン共和国のように、大統領制度とする。何年かに一度選挙をして国民が選ぶんだ。」
「おお、成る程。」
「お前はこの国の象徴だ。お前が大切なものすら犠牲にしてまでもつくってくれた国だ。未来永劫王様はお前だけだ。・・・だからもし旅に出たりしてこの国を後にしたとしても・・・いつでも戻ってくればいい。ここはお前の故郷、お前の実家だと思え。」
「・・・シュウ・・・。」
「10年たとうが100年たとうが、お前の居場所はここにある。お前はこの先いつでも安心して帰ってこれる。」
「・・・無理だよ。いずれ忘れ去られる。」
「いや、忘れない。語り継がれる。書面にも残す。伝統となる。俺がそうすると言えばそれは実行される。それこそ忘れたのか?俺は優秀な策士だってことを?」
シュウがニヤッとヒナタに笑いかける。
ギュッと唇をかんでいたヒナタは黙ってシュウを見ていたがフッと笑った。
「・・・そうだったな。それも悪徳な策士だ。あは。・・・僕の・・・実家、か・・・。」
その時クラウスがお茶を持って入ってきた。
「さあ、そろそろお茶にしましょう。?どうかされたんですか?」
「ん?ううん、何でも。・・・そういえばさあ、シュウもクラウスも結婚とか、しないの?」
お茶を手にとりながらヒナタが首を傾げて言った。
「結婚、ですか・・・?」
「わたしはするつもりはない。」
「えーなんで?まさか猫が恋人とか言うんじゃないだろうな?」
「・・・人を微妙に変態扱いするな。それを言うなら普通は仕事が恋人とかだろう・・・?ただ興味がないだけだ。独身が気軽でいいしな。」
「ふーん。クラウスは?」
「そうですねー、まあ機会があれば。」
相変わらず穏やかに微笑んでクラウスが言った。
「機会はいっぱいあるじゃん。だいたいお前ら女性に人気あるくせにさあ、もったいない。」
「・・・何がもったいないのかよく分からんが・・・。」
「ヒナタ様もとても人気がおありですよ?」
「えーほんと?こんな子供のままでも?」
「ええ。よくお付き合いできたらいいのにとか言っているのを聞きますよ?」
「まじで?」
「良かったじゃないか。何だったらお前こそ付き合うなり結婚するなりすればいい。」
喜ぶヒナタにシュウが呆れたように言った。
「結婚は無理だよー。相手年とんのに僕だけ子供のままなんだよー?きっと僕がよくても相手が嫌だろ?それにさあ・・・その・・・。」
急にヒナタはもじもじしだす。
クラウスは首を傾げた。
シュウも不可解な顔をして、どうしたんだと先を促す。
「・・・実はさあ・・・僕さー・・・いや、やっぱいいや。何でもない。」
この話はこれでおしまいっとヒナタはお茶を飲みながら仕事の案件を持ち出した。
シュウもクラウスも気にはなったがヒナタが話すつもりがなさそうだというのと、仕事の案件に気をとられ、この話はそのままになった。
その夜ヒナタはベッドに入ってふと昼間の会話を思い出した。
・・・結婚。
自分には遠い響き。
勿論歳をとらないという理由が大きい。
そのほかに、実はヒナタはいい大人になってもきちんとした方法を知らなかった。
子供を作る、という。
勿論性交をするという事は知っている。
言葉として。
ただその性交の内容が分からない。
性的な事はある程度は言葉としては知っていた。
そう、子供が少し聞きかじって知っているように。
ただ具体的に何をするか、となると。
小さい頃はじいちゃんに育てられた。
学校になんて行かなかった。
友達も少なかった。
少年軍に入った頃にようやくそういった話を耳にするようになったが詳しい事なんて知らないままだった。
そうこうしているうちにあの戦争が始まった。
そして気付けば何も知らないままだった。
「・・・今更誰かになんて聞けないよなー。」
その手の話は、言葉としてだけ知っていれば大抵あわせられる。
だいたい普通、具体的な話なんてそうそうしない。
それに考えると、きちんとした性的な話は耳にはいってこなかったような気がする。
小さい頃の知識のまま留まっているヒナタ。
体も思春期を迎えるかまだか、といった頃くらいで止まったまま。
だから知らなくともそういった欲求にかられるなんてこともなく、ましてや一人で処理するはめにもならず。
だからヒナタ自身特に問題はなかった。
「まあ、いっかあ・・・。」
そうして眠りに陥る。
いずれ誰かを狂おしく想うようなことでもあれば、また違ってくるのだろう・・・と・・・。
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ