ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~
嚆矢
「ねー、平原ってどんくらい続くんかなー。たいした敵出ないし。」
カレリアから山を下り、平原に出た。
広い平原をヒナタの愚痴を聞きながらようやく抜けるとブラス城というところに着く。
だが余り大した店はなく、宿屋も城内にあって個室はなく、兵士も多くてなんだか落ち着けないところだった。
ゼクセンの騎士団はここにいるらしいが生憎誰にも会うことはなかった。ただ何かあったのかバタバタした感じはあった。
早々にそこを出てそのまま森に入った。
そこを抜けてビネ・デル・ゼクセという大きな街に着いた。
「うわーお祭りみたいだっ。」
中に入って港側にある宿屋を目指すと広場ではバザールがあった。ヒナタのテンションがあがる。
「後でね。先に宿屋に行くよ、ヒナタ。宿とったらまた足りないものとか補充したいし、どのみち買い物行くからその時にね。」
ヒオウが呆れたように言ってヒナタを引っ張っていく。
結局その後ヒオウはヒナタに散々引っ張りまわされた。
夜宿屋の部屋でヒオウが言った。
「・・・ヒナタほんとお店とか好きだね?」
「えー?だってその場所によって品物とかも色々だし、面白いじゃん。」
「・・・良かったね・・・?・・・それにしてもこの街にあるゼクセン評議会ってのはくせがあって嫌な感じだね。プチハルモニアって感じ。」
「あは、確かにー。そういやなんかどっかの城にちゃち入れに行ってたの、失敗して帰ってきたらしいねえ。」
「へえ、ヒナタ遊びに夢中だとばかり思ってたけど、ちゃんと話聞いたりしてたんだ?」
「む。バカにすんなよ。僕だってやるときゃやるんだよ。」
「あはは。なんでもその城は以前グラスランドでの共有地だっていう取り決めがなされてたらしくて、新しく着任した城主がそれを利用して店をする為の場所を貸すっていう商売を始めたみたいだってね。だけどその期限が切れるってんでゼクセンが城を明け渡すよう取り囲んでたらしいけど、そこの城主がシックス・クランの代表としてカラヤクランの族長と取引したらしいね。1ポッチで賃貸するっていう。」
「1ポッチ・・・。ってカラヤクランの族長ってさー、もしかして?」
「あー、うん、ルシアだね。」
「今でも三日月刺さってんのかなあ?」
「・・・そんなの刺さってるわけないでしょ・・・?ヒナタさあ、女性の髪型とか容姿からかったら後まで怖いよ?」
「・・・会うことあるかな・・・?」
「かもね?噂では今はリザードクランに皆移ってるらしいけど。カラヤの人々は。」
「ああ、焼き討ちにあったから。」
「うん。・・・どうやらそれだけでは終わらなそうだけどね。どうもハルモニアの影がちらつく。」
「うん・・・なんか、やっぱ嫌な感じだよな。」
2人は必要な品々と入る限りの情報を得た後、その街を後にした。
今度は森を出て左の方向に向かう。するとまた平原に出くわした。
やはり大した敵が出る場所でもなく、ヒナタはいい加減面白くなかった。
「また平原ー?もうあきちゃったよー。退屈だよー。」
「飽きたって・・・。どうせヒナタは変わった出し物があるような街とかじゃないからでしょ。そういやこういう場所でもたまにボス級の敵が出現するらしいよ?まあ宝くじに当たるかもって思えばちょっとは楽しめるんじゃない?」
「むー。そんだけぇ?この辺ももうちょっとやりがいのある敵でも出てくれたら少しは楽しめるのになー。」
「・・・あー・・・どうやらその宝くじに当たった人があっちにいるみたい。」
ヒオウが向こうの方を見て言った。
へ?とヒナタも見る。
確かに多少はやりがいはありそう・・・かなあ・・・?でもそこで戦おうとしている人にはかなりの強敵らしく感じた。
「危ないよあれ。ちょ、助けに行こうっ。」
ヒナタはヒオウの返事を待たずに駆け出した。
ヒオウはやれやれと肩をすくめると後に続いた。
近くにまでいくと、どうやら苦戦していたのは見るからに弱そうな青年と格好だけは勇ましい鎧を来た少女の2人だった。
「大丈夫?僕らが代わるよーっ。」
ヒナタがさっとその2人の前に立った。
2人はえ?とそれまでの堅い表情から一変驚いた顔をした。
ヒオウが、まあまあ、ほんとあれに任せてたら大丈夫だから、と2人を下がらせる。
「え?ちょ、何それ?ヒオウ、まさか一緒になって見てる気?」
「退屈だったんでしょ?丁度いいじゃない。がんばれーヒナタ。」
ヒオウはニコニコと手を振った。
ヒナタはえーっといいながらも楽しそうに敵に向かっていく。
「え?あ、あの。た、助けてくれるのは大変ありがたいんですけど・・・あの、あの少年1人じゃ・・・。」
青年が困ったような焦ったような様子でヒオウに言った。
ヒオウはん?と青年に向き直りのん気そうに言った。
「大丈夫だよ、あれくらいなら。」
そう言っている内にもヒナタが最後の一撃を敵に食らわしていた。
青年と少女はポカンとそれを見ていた。
「んー動いた動いた・・・ってヒオウっ。なんだよ冷たいなー。これで僕が殺られてたらどうすんだよ。」
「あーその時は盛大に悲しんであげるから。」
なんだよそれっといいながらヒナタが3人のもとに戻ってきた。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございました。お強いんですね。すごいなあ。」
「ほんと、ありがとうございますー。すごかったですねっトーマス様っ。」
「えへ。それほどでもー。」
2人にすごいすごいと言われて照れてすぐに機嫌の直るヒナタを、ヒオウは生暖かい目で見る。
2人は青年の方がトーマスといい、どうやら例の城主らしい。
少女の方はセシルといい、その城を守る守備隊長、だとの事。
ヒナタとヒオウが旅をしているところだと言うと、もうすぐそのビュッテヒュッケ城とやらなので、良かったら暫く滞在して下さいとトーマスが言ってきた。
「まじで?行く行く。僕はヒナタ。こっちの食わせ者がヒオウだよ。」
「・・・その紹介の仕方はどうかと思うんだけど・・・?どの口がそんな事言うのかなー?」
ヒオウがニッコリとしつつヒナタの両頬を引っ張る。
「いひゃい、いひゃいっへー。ひゅいまひぇーん。」
思わず涙目になっているヒナタ。
えー何言ってるか分かんないなーと相変わらずニッコリしたままホッペを伸ばしているヒオウ。
成る程、食わせ者、かーとトーマスは内心はらはらしながら納得していた。
横ではセシルが、わーヒナタさんのホッペって良く伸びるんですねえと変に感心していた。
こうしてヒオウとヒナタは暫くビュッテヒュッテ城に留まることになった。
2人が向かった頃はちょうどゼクセン評議会が引き下がって城に一旦平和が戻った時期だった。
暫くして、この城は”炎の運び手”達の本拠地となる。
作品名:ヒオウ・ヒナタ~~溺愛魔王と俺様~~ 作家名:かなみ