囚われの王冠
初めて彼と知り合ったのは、自分が仙界の修業を終え、荒野となった王都を見つけてから少し経った後であった。
『お前、聞仲あるか』
『朱"氏"がよくお前のことを話ししてたあるよ』
『アイヤー、確かに我は長生きしてるあるが仙道じゃねーある』
『我は殷、昔は夏だったあるよ』
『我は「国」ある』
『大体の主要な奴らが死んでしまった今、我の存在をどうするかはお前の好きにするよろし、聞仲』
そして自分は、彼の言葉をそのままのみこんだかのように禁城から遠く離れた場所に隔離し、軟禁した。
彼の存在を知っていたのは自分と、周りの世話をする者と、おそらくごく僅かの限られた人間だけであろう。
歴代の王には知らせなかった。当たり前だ。彼らは天子である。それを常識、意識の柱として生きてきた。殷やその天子を一番に考えている自分が何故その存在価値を揺るがすような人物と会わせなければならないのか?
彼もそれを自然に受け入れた。本人がぽろりと零したことによれば、以前も時々政争の種にされて人と接触するのに嫌気がさしていたようだ。
時々、時々本当に行き詰った時だけ、自分は此処に来る。大体自分が行き詰っている時は国である彼は健康を害しだるそうに寝そべっているのだがそれでも話を聞き、聞くだけの時もあれば稀に助言したりした。そして大抵、此処に来たら問題は解決した。しなくても、気分が晴れた。
そんな毎日が変わったのは、あの男が自分の世界に入ってきてからであった。