りりなの midnight Circus
しかし、彼は自覚していないが彼の脳裏に響くなにやらノイズのようなものが嘘を重ねる度に酷くなっていく。
向こうの輸送機はどんな様子なのだろうか。エルンストは少しだけ気になった。
朱鷺守はおそらく、ふてくされて煙草を吹かしているか、レイリアかシグナムかを捕まえて愚痴を垂らしていることだろう。
エリオンはおそらく、アリシアを押さえるのに手一杯になっているに違いない。
それはそれで賑やかなことだろうと思い、のぞき窓から見える前方を飛翔する輸送機にエルンストは目をやった。
沈黙に沈む輸送ヘリの中で、最後に唯一操縦士が特務機動中隊本部に到着を告げる。
エルンストは、着陸(タッチダウン)し開かれたキャノピーから身を躍らせ、段差になっているタラップを下るなのはとヴィータに手を貸した。
タイトなスカートを動きづらそうにしていたなのははその手を取り、無言のまま彼とすれ違う。
そして、そのすれ違いざま、小声でエルンストに一言だけ告げた。
「エルンスト・カーネル一等陸士。本日、業務終了後、私の私室に出頭しなさい。そろそろ、話をしてもらいます」
有無を言わさない低い声で吐き出されたその言葉に、エルンストはいよいよ覚悟を決めるべきかと考え、
「了解」
と答えた。
なのはとヴィータはそのままエルンストを振り返ることなく、ヘリのローターの回転で巻き上がる風に髪を押さえつつ屋上のヘリポートから姿を消した。
***
その後、機動中隊の面々は自由待機を解除され、それぞれ作戦に関する報告書の提出を命じられた。
エルンストは、どうやって書面をでっち上げるかを考えあぐねた結果、当たり障りのない表現を羅列しただけのものをアグリゲットに提出した。
アグリゲットはそれを軽く目を通し、
「まあ、いいだろう」
といってそれを受け取り、部隊長代理のサインをそれに記した上で提出された記録素子(データ・ディスク)を分厚いファイルに挟み込んだ。
かなり校正を喰らうだろうと覚悟していたエルンストはかなり拍子抜けした様子でそれを見守ったが、アグリゲットは平然とした表情で彼の退出を許可した。
「あ、エルンスト。あんたもう終わり?」
とりあえず、荷物を引き払おうとして事務室に戻った彼をまだコンソールの前で文面と向き合っていたアリシアが迎えた。
「ああ」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪