りりなの midnight Circus
エルンストは簡潔に答えると、それまで作業をしていたコンソールから自身のデータ・ディスクを抜き取り、それを内ポケットにしまった。
「いいわね、あんたは。結局やってたの監視だけなんでしょ? あたし等は魔法も使えなくて大変だったってのに」
アリシアはそう憎まれ口を叩くと、緊張が切れた様子であくびがてら身体を伸ばした。
「そうだな、楽な仕事だった」
アリシアがそういうのはもっともな話だとして、エルンストは特に腹も立てずにそういうが、アリシアにはそれが不満だったようだ。
「いーわねー、あんたは! いつも、いつも、いつも後ろからあたし等を眺めてるだけで。たまには前線に出る人間のくろうって奴を知ったらどうなの? あんたはいつも無愛想で、あたしらの気持ちなんてなにも理解できないでしょうね。まったく、何であんたみたいな奴がここに呼ばれたのかしら。教導隊から出向? 馬鹿みたい、教導隊出身だからってエリート気取りってわけ? 正直反吐(ヘド)が出るわ」
アリシアは止められなかった。言いたくもないことが次々と口からあふれ出して収拾が付かなくなる。
事務室にはアリシアとエルンストの二人しかいないという状況がそれを加速させるばかりだった。
「ああ、お前の言うとおりだな。正直、俺もヘドが出る……高町一尉に呼ばれているのでな、俺は先に失礼する」
エルンストはそんな彼女の罵倒もまったく意に介する様子を見せず、そのまま入り口へと向かい姿を消した。
ドアの閉まる音が響き、エルンストの姿が完全になくなった。
ただ一人残されたアリシアは、そのままコンソールに突っ伏して、何かが弾けるように泣き出した。
「アリス……」
いつの間にか双子の弟、エリオンが彼女の背後に立っていた。
「来ないで、エリィ。お願いだから」
アリシアはそんなエリオンさえも拒絶してしまうが、エリオンはそれを無視して、ただ優しく彼女の背中をなでつける。
「ごめんね、アリス。アリスが、そんなにあいつを想ってたなんて気がつかなかった。だから、ごめんね、あのときあんな事を言って」
エリオンはあの事件の後、アリシアと話すタイミングを取り逃していた。報告書作成の時も例によってエリオンはアリシアの側で作業をしていたが、結局二人はなにも話さず、先に作成が終わったエリオンはいたたまれなくなりすぐに部屋を後にしたのだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪