りりなの midnight Circus
と、エルンストはつぶやいた。
「そうだろう。俺たちの最新鋭より一つ古いだけの小型高性能輸送機だぜ」
カーティスは、少しすすけたその船体を見上げ、まるで自分のことのように誇らしく鼻をこすった。
「高速時空間連絡船、輸送船〈テンオ〉。なるほど、こいつなら脱出可能だ」
ベルディナはそういうが、エルンストは気がついていた。この船は、時空管理局のどの部門も正式採用しているものではないと。ならば、どこのものか。
ミッドチルダでは見たことがない。少なくともエルンストはこれが実際に運用されているところを見たことがない。
それほどに異質な感じがそれにはあった。
「では、お乗りください。すぐに発進します」
カーティスはそう告げ、ベルディナはすでにそのタラップを開き、中に乗り込もうとしていた。
「しかし、どうやって外へ? それに飛行管制の許可は取っているのか?」
ベルディナはそんなエルンストの優等生ぶりに鼻を鳴らすと、
「お前なぁ。こんな馬鹿みたいに怪しい船で、しかも逃亡中の身の上の二人を乗せた船が、どうやったら正規の飛行ルートで飛び立てるってんだ」
いや、それぐらいエルンストでもわかっていた。ただ、最後の確認がしたかったのだ。
自分は、今まで守ってきたもの、これから守ろうとしたものすべて、ミッドチルダのすべてを敵に回すこととになるのか、と。
そして、ベルディナの答えはそれを肯定した。
「結局、俺は世界の敵になるほかに選択肢はないか」
エルンストはそれをつぶやき、輸送船へと乗り込んだ。
「シートベルトをしっかりと締めていすにへばりついておいてくださいよお二方、かなり荒っぽくいきますよ」
それまで沈黙を保っていたその機体は、カーティスがコクピットに乗り込み数分もたたないうちに息を吹き返した。
「さあ、いきますよお嬢様(テンオ)。本日も優雅に力強いダンスをいたしましょう」
カーティスは、まるで恋人の肩を抱えるような手つきで操縦桿を握りしめ、そのトリガーを押し込んだ。
とたんに響き渡る轟音とともに、テンオは何の遠慮もすることなくアフターバーナーに火を入れた。
「前方ハッチ、強制排除を確認。火災発生の模様だが、先行に似異常なし。フライトアプローチ開始!!」
地上に横たわる大空の女王は、その足を地面にこすりつけローラーのきしみをあげて日の本へと進んでいく。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪