りりなの midnight Circus
管理局教導隊の実質的なトップである教導評議会に所属する彼は、エルンスト達に直接今回の任務を通達し、情報部の情報を彼らに与えた人物だった。
教導隊の責任者の一翼を務める傍ら、エルンスト達のような非合法任務を請け負う者達への橋渡しを行う事からエルンストは出会った当初からこの人物をよく思っていなかった。
腹の奥が読めない、二枚舌どころか三枚も四枚も下を持つ男、スリムに引き締まったその腹の下には薄汚い陰謀が渦巻いている男。おそらくニコルもそう感じていたのだろう。今では確かめることは出来ないが。
次第に険しくなる眉間のしわを見たベルディナは、再びその体を椅子に沈め深く溜息をついた。
「そんなに睨むなよ。俺だって優秀な観測士(スポッター)を失って気落ちしてるところだ。まあ、お前のような優秀な狙撃手が生き残ってくれたことがせめての幸いではあったがな」
その表情、仕草、口調からは演技を感じられない。ならばこの人物は無関係なのかとエルンストは一瞬思ったが、そのような演技などこの人物には容易なことだと思い直した。
まるで飄々として肩をすくめる彼の姿は、エルンストと同じ年齢とも思えるほど若々しい。
しかし、彼の経歴を見る限りその年齢はエルンストの4倍以上の年を重ねているはずだった。
エルンスト・カーネル、"記録上"18歳。しかし、彼が駆け抜け生き残ってきた任務は他に類を見ないほど過酷で危険なものだった。そして、彼の目の前にいるベルディナ・アーク・ブルーネスは、権謀術数に長けた老獪、ミッドチルダの闇を知り尽くした男だと裏ではそう囁かれている。
「私はあいつと一緒に死ねれば良かったと考えます。次の任務を、一等陸佐」
判断できないことは判断するな。情報が不足しているならまずは情報を収集せよ。邪推や都合の良い結論は破滅を呼び込む。狙撃手訓練時代に教官から教わった教訓を彼は忠実に守った。
情報が不足しているのなら集めればいい、あらゆる手段を講じてそれを行えばいい、自分にはそれだけの技術が与えられた。しかし、不足しているのは特権というものだった。
「次の任務はもう決まっている。そろそろ届くころだな」
ベルディナはそういうと、そのまま押し黙った。
そして、エルンストが直立不動に耐えきれなくなる寸前に彼の背後の扉が叩かれた。
「高町一等空尉入ります」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪