りりなの midnight Circus
「そして、父なる神はこうも告げられた。『心せよ。我もまたこの世にありて全てを見守らん。この世に遍く在るものにこそ、我が息吹は在らん。感ぜよ、この世に遍く者達よ。我は汝等と共にあるものなり』」
それは祈りの言葉。世界に在りし時、すべてを創造した神の奇跡を語る言葉だった。
「神、双眸を閉じて涙して、その腕を天へと捧げて光となる。光、粉塵となりて世界に注ぎ、世界は静寂に包まれた。創世はここに完遂を遂げ、生まれる者はその命に目覚めた」
彼女の放った光の波動は、猛然とする勢いを崩すことなくただまっしぐらに彼の元へと突き進む。
しかし、彼はただ目を閉ざし、ここにはいない神への祈りを続けるばかりだった。
「神よ、神よ、父なる神よ。あなたは我らと共にある、あなたは全てに在り全てはあなたを礎とす。ここに我らの栄光を。悠久なりし静寂を。語り継ぐ、その全ての縁を」
そして、彼は目を見開きその手に宿る絶大なる魔力を掲げ、最後の言葉を口ずさんだ。
「無垢なる神に祝福を、ルーヴィス(なれ、あるらんかし)」
彼に襲いかかる彼女の爆流。それにも負けず、なおもそれを飲み込まんとするほどの力が彼の手に宿りつつあった。
彼はそれをただまっすぐそれへと掲げ、高々とそれを口にした。
「其は、聖者を貫きし災いの神槍。その力を持ってあまねく事象を貫き通せ……流血の神槍(ロンギヌス)!!」
その力はただの一点へと集中され、長く伸びゆく闇の巨杭は彼の手により其れを離れ、一条の軌跡となり投擲される。
わずかに迫った彼女の巨砲の雄叫びはまるでそれを包み込み、飲み込んだかのように思えたが、絶大な力を集約するその飛槍はその一切を抵抗ともせずに、それらをただの無力といわんばかりにはじき飛ばし突き進む。
「そ、そんな!」
すべてを賭した自らの一撃がそれによって徐々に勢いを減じる様を見て、なのははただ呆然とするしかほかがなかった。
「何をしている! よけろ!!」
その声に一瞬ほどの反応を遅らせてしまっていればおそらく、彼女は無事では済まなかっただろう。
たとえ、仮想体であるこの身であっても苦痛は感じるし、その苦痛も過ぎれば本体に対して影響を与える。
なのはは襲いかかる力の巨槍と拡散していく自らの力の奔流に吹き飛ばされそうになりつつも何とかそれをよけることに成功した。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪