りりなの midnight Circus
第二十一話 A32971”地球”
アナザーエリア、32971号世界。時空連合において地球はそう呼ばれていた。
ミッド・クラスターを首都とする時空連合の世界地図は、首都を中心とした同心円状にそれぞれの世界が組み込まれる形となる。
中心を時空連合の宗主国がしめるセントラルエリア。その外殻を固める理事国の集まるプラネタリエリア。さらに外殻を覆い尽くす、時空連合の管理下にありつつもそれとは協調姿勢を見せない国家群、ターミナルエリア。
そして、その円盤の最も外れ、アナザーエリアと呼ばれる領域に所属する国家群の多くは未だ時空間航行技術も観測技術も持たない辺境のエリアなのだ。
地球もそのエリアに所属し、自分たちの宇宙の外に無限に広がる時空世界を知らない世界だった。
時空航行巡洋艦アークソルジャーに停泊する高速輸送船〈テンオ〉は通常の船舶であれば禁止されている単独による時空間離脱および、突入機能を持つ。
そのためこの船は、時空連合が管理する超空間ゲートを使用することなく時空間と宇宙空間の間を行き来することが出来るのだ。
「そろそろ地球の近傍領域へと達します。残念ながら、私達の艦はアナザーエリアへの一定距離以上の接近は許可されていません。最後までおつきあいできないのが残念です」
輸送船テンオに乗り込む面々は、通信モニターごしに話す艦長、本山美由紀の表情が陰る様子を目にしていた。
「いいえ、艦長。ここまでのご助力に感謝します。とても快適な航海でした」
なのはの言葉に美由紀は多少の笑みを浮かべ、
「ありがとう、なのはさん。それでは、いつまでも別れを惜しんでもいられません。貴船の航海の無事を祈ります」
なのは達、元特務機動中隊の面々は美由紀に対して敬礼を贈り、美由紀は敬礼と共にモニターを閉じた。
ハッチが開かれ、テンオが時空世界を飛び立つ様子をレーダー越しに眺め、美由紀は一つだけ溜息をついた。
「行ってしまいましたな」
艦橋の艦長席の側に立つ、彼女の副官であるサライト・カサラ戦佐補(三佐に相当)はそんな彼女に声をかけた。
「ええ。そうですね。とても勇敢な人たちでした」
美由紀は彼からコーヒーを受け取ると、砂糖とミルクをたっぷりと注ぎ込みそれを口にした。
「だが、あいつ等、どうも今の地球の状態を知らない様子だったぜ」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪