りりなの midnight Circus
船の内部にブースターの奏でる振動が重苦しい音として響き渡り、そしてしばらくすると別の振動が船の外部からすべてを揺さぶった。
「宇宙で感じる地震か。あまり、心地のよいものではないな」
エルンストは大気の摩擦によって生じる熱がわずかながら船内に漂ってくる様子を感じながら、ただそれだけをつぶやいた。
「大気圏突入完了。レイリア特務捜査官。どこへ行きましょうか?」
振動が和らぎ、それが完全になくなった頃カーティスは通信機越しにレイリアに声をかけた。
「日本の首都、元東京シティーだ。そこに協力者がいるとのことをベルディナ大導師から聞いている」
カーティスはわかりましたと伝えると再びそこを目指して舵を切った。
最初それを見たときにはそこがどこなのか理解できなかった。ひょっとすれば、目的地に向かう前に立ち寄った休憩地なのかとも思った。
できることならもう少しまともな場所で休憩がしたいと思った。
こんな、廃墟になったビル群が押し寄せる波のそこに沈んでいるような場所ではなく。
「到着しました。日本国元首都圏上空です」
カーティスにそう伝えられたにも関わらず、なのははそれを信じることはできなかった。
「どうして、こんなことに。これじゃまるで……」
水没した都市群の向こう側にはその浸食から逃れられた陸地が見えるが、そこもまた人の気配のしない荒れ果てた荒野となっていた。
「見えるかな、カーティス。あの山の麓から数キロほど手前。小高い丘になっているところがあるだろう。とりあえずあそこに降りてくれ」
レイリアは、窓の外とベルディナから渡された地形図、そしてこの周囲の略図を比べながらカーティスに指示をした。
エルンストはそれを見た、確かに彼の視線の先、ひときわ高い山の裾野に広がる森林より相当手前には頂上がぽっかりと開けた丘が見える。
森はその丘の奥で止まっており、わずかな深緑が蔓のようにその丘にまとわりついているのだった。
あれなら、船体の上部に何かかぶせれば空からのカムフラージュにもなる。
「着いたらいろいろと説明しますので、今は僕の指示に従ってください」
未だ崩れ去った町並みをただ呆然と眺めるなのはと朱鷺守にレイリアはそう伝え、カーティスに指示を送った。
急斜面に獣道が入り組む丘を下った先には、比較的まともな町並みを残した住宅街が広がっていた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪