りりなの midnight Circus
いや、まともと評した比較対象が水没した都市群であるからそう見えただけなのかもしれない。実際、その光景を初めて見たときにはここが人の住まう場所なのかと息をのむような様子だったに違いない。
レイリアが案内したその住宅街の一角には、崩れつつも未だ神秘的な静謐性を保つ屋敷があった。
「ここは」
その門構え、その先にある荒れ果てた庭を見つめ、朱鷺守は息をのんだ。目を見張り、なぜここがここにあるのかと膝をふるわせた。
「隊長? どうしたのですか?」
それを後ろから眺めていたエリオンは彼の様子の変貌にいち早く気がついた。
「なんてこった。ここは、俺の家じゃねぇか」
門のそばにある煤けて文字の読み取れない表札に指をこすりつけ、何とか現れたその文字に、なのはは声を上げた。
ほかの者にはそれが読めなかったが、彼女にはそれがはっきりと見て取れた。
『朱鷺守之屋敷』
それにはそう書かれていた。
「どちら様ですか?」
門前がにわかに騒がしくなり、それに気がついた家主が庭先から姿を見せた。
そして、彼女が彼の姿を目に写したとき、彼女は手に持っていた竹箒を取り落とし、静寂に沈む屋敷に乾いた音が響き渡る。
「お兄様……」
彼女は口を手で覆いながら、朱鷺守棋理を見つめた。
「……七葉……妹」
朱鷺守棋理は、自らの妹朱鷺守七葉から視線をそらしただその場にうつむき沈黙した。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪