りりなの midnight Circus
第二十二話 朱鷺守
朱鷺守棋理の妹、朱鷺守七葉は兄との再会を祝うことなくただ黙って彼らを奥の間へと導いた。
垣根は崩れかけ、母屋の屋根や壁も一部が破壊されていたが、整備が行き届いた家屋には人の生活している気配があった。
しかし、家人の気配がしない。
(こんなところで一人で生活をしているというのか、七葉は)
朱鷺守棋理は無言で前をいく妹の小さな背中を眺め、彼女の境遇を思いやった。
夕闇が庭先を覆い始める頃、畳の間に客人を案内した七葉は蝋燭を持って再び姿を見せた。
「申し訳ございません、お客様方。ここのところ、発電設備が不調でして。このような明かりしか用意できません」
部屋の中央におかれた彼女の細い腕ほどにもある蝋燭はそれでも貴重なものなのだろう。
その幻想的なオレンジの光とともに部屋の四方の壁にはそこに座る者達の影が映し出される。
「それで、お話しいただけませんか? お兄様。なぜ……、なぜ、15年前にお亡くなりになったお兄様がここにおられるのですか」
七葉の言葉に呼応して全員の視線がレイリアの元にかき集められた。
誰も何も言わない、ただその視線だけで彼にことの説明を命じていた。
「わかった。話すよ。だから、そんな目を向けないでくれ」
レイリアはそれでもおどけてみせるが、それに頬を緩ませる者は誰一人としていなかった。
「すでにお察しの通り、この世界。この地球は、高町一尉や朱鷺守一尉が知っている地球ではない」
なのはと朱鷺守棋理は無言で頷いた。
「ここは、何というのかな。たぶん、一番しっくりくる言い方をすれば二人の知る地球の平行世界の地球だということなんだ」
そして、レイリアは続けた。この地球で何が起こったのか。なぜ、この地球はこんな状況になってしまっているのか。
「15年前にね。僕がまだ子供だった頃の話だ。この地球で大規模な時空災害……いや、時空犯罪といった方がいいかな。それが起きた。だから、この地球は滅びた。僕はそうきかされている」
レイリアはそういうと、七葉が差し出したお茶に手をかけた。
「地球規模の時空災害でした。膨大な数の人々が亡くなり、今でも多く者がここで苦しい生活を続けている。そして、私のお兄様はそのときにお亡くなりになられた」
七葉は丁寧な手つきで茶を点てながら、静かに言葉をつないだ。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪