りりなの midnight Circus
「平行世界とか、時空犯罪とか、難しいことは私にはわかりません。ですが、あなたは七葉のお兄様ではないということですね」
七葉はそういって茶を棋理の元へ差し出した。
朱鷺守棋理はそれに手をつけることができなかった。
「向こうの世界の七葉は、15年前に死んだ。殺された。だから、俺はその復讐のためこの身を血に染める決意をした」
朱鷺守棋理はそのときを思い出していた。ただ無力だった日々。最愛の妹の死を背負いながらその敵だけを思い描いていた日々。
「俺はその日々を間違っていたとは思わない、少なくとも俺はそうしなければ生きてはいけなかった」
朱鷺守棋理は面を上げることができず、己の手を握りしめた。
「会わなければよかった。そうすれば、揺らぐことはなかった」
まるで、懺悔のような言葉をはき出す朱鷺守棋理を見て、エルンストは結局このものも自分と同じような道を歩いてきていたのかと感じた。
自分だけではない。それは当たり前のことだったが、エルンストにとってはなぜか新鮮な驚きがあった。
「ですが、私は、七葉はお兄様ともう一度こうしてお会いできて嬉しく思います」
七葉はそういうと、朱鷺守棋理の両手を握りしめた。
「俺もだよ、七葉。俺の知るお前ではないにせよ、こうして再び会えたことをうれしく思う」
「うれしいですわ、お兄様」
彼女の両手を握り返す彼の両手を胸に抱きながら、七葉は静かに涙をこぼした。
七葉が立てたお茶を飲む朱鷺守棋理は、やはり七葉の入れる茶が一番だとつぶやきながら、レイリアから今後について話を聞くこととした。
レイリアの答えは実に簡素だった。
「敵を迎え撃つ。連中は必ずここに現れて僕たちを消そうとするはずだ。それを撃退し、追い返し。そして、連中の居場所を特定させる。ベルディナ大導師がそのために今奔走しているところだ」
敵を探すためのもっとも手早い方法。それが、己をさらし囮として敵をおびき寄せることだ。
しかし、それは多大なリスクを背負うこととなる。敵を全滅させず、撤退させつつ自分たちは囮としてほとんど無傷で生き残らなければならない。
レイリアはエルンストに目配せし、エルンストは小さく頷いた。
その話が一段落したところで、部屋の天井からつり下げられていた電球に光がともった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪