りりなの midnight Circus
第二十三話 二人の反撃
朱鷺守の屋敷での歓待は身に余る者だとなのはは感じていた。船に積まれていた最低限の食材を吟味し、七葉が真心込めて作った料理は実に素朴な味わいで、今は遠い空の元にある母の姿を思い出すほどだった。
朱鷺守棋理は、終始仏頂面でそれを食していたが七葉にどんどんお代わりを頼む姿は見ていてほほえましい者だった。
しかし、気になることもあった。夕食が始まりしばらくすると、そのにおいにつられて仲間の面々も徐々に姿を見せたが、その中にはエルンストの姿だけが見えなかった。
「ねえ、レイリア。エルンスト君はどこに行ったのかな?」
なのはの問いに、
「何でも、感覚を取り戻す。とか言って森にこもってしまいましたけど? 呼び戻しましょうか? たぶん、無駄だと思いますけど」
レイリアは飄々とした面を崩さず頬に米粒をつけながら答えた。
結局、代わりになのはがエルンストに連絡をつけようとしたが彼は無線封鎖を行っているようで、呼び出し音さえもかからないという具合だった。
食事も終わり、朱鷺守の屋敷の広い浴場で久方ぶりの風呂にたっぷりとそれまでの疲労と汗を流した面々はそのまま誰が先とも言わず、あてがわれた客間で眠りこけてしまった。
フクロウの鳴く声が森の中を響いていた。エルンストはその声を聞き、その声を暗号代わりに使ってもいいなと思っていた。
深夜の闇に沈む森の中にはそれこそ何の光も宿らない。時折ざわめく風の音に耳を澄ませても、それに人や動物の足音が混じることはなかった。
エルンストは時折訪れる眠気を刺激的な味のする飲物でやり過ごしながら、傍らに置く【ストライク・ビューワー】に意識をやった。
(周囲に敵反応なし)
【ストライク・ビューワー】の答えに再び監視に戻る。先ほどからこの繰り返しだった。
レイリアがなぜエルンストを誘い外へ出たのか。それには全く他意のないことだった。
「敵はいつ来るかわからない。だから君に監視をしていてもらいたい」
正直なところ、エルンストもすでにその疲労はピークに至っていたが、それでも行わなければならないことであれば彼は全く躊躇しない。
そして、今に至るまで彼の期待に応え続けた。
夜明けはまだ遠い、敵が訪れるとしたらどのタイミングになるだろうと彼は考察した。【コールド・アイズ】から伺える朱鷺守の屋敷にはまだいくらかの光が灯っているようだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪