りりなの midnight Circus
まだ、誰かが眠っていないのだろうか。それとも、敵を欺くための偽装か。
もしも、自分たちの敵がすでにこの地に進入しているとすれば、もしも自分がその敵だと仮定した場合どのタイミングで奇襲をかけるだろうかとエルンストは考え続けた。
(俺なら、しばらく二、三日は監視を続ける)
エルンストはそう答えに至った。狙うべきはこちらの緊張がもっとも緩んだときだ。それは、単に朝起きたとか、食事を取り終わったときだとかそういうことではない。
敵の襲撃があることはすでにわかっている。だが、それがいつになるかわからない。人間とは不思議な者で、どのような状況に立たされていてもある時を過ぎればそれが日常となり、ふとしたきっかけで緊張が一気に緩んでしまうのだ。
そして、それが訪れるのはおそらく三日後か四日後とエルンストは予想していた。
そして、敵はその間は闇に乗じて監視をするのみにとどまるだろう。
しかし、エルンストはそれだけの時間を与えるつもりはなかった。
今、【コールド・アイズ】の視界の隅で何かが動いた。
エルンストは、【コールド・アイズ】にそのまま監視を命じ、傍らのライフルを取り寄せ【ストライク・ビューワー】をのぞき込んだ。
(視界変更。暗視モニターへ)
【ストライク・ビューワー】はその表示を、赤外線と魔力反応を検出するものへと変更する。
(目標補足。データ収集開始)
暗闇に浮かび上がった人型の赤い物体にフォーカスを合わせ、彼はそれがいったい何者かを探り込んだ。
それが敵である保証はなかった。ひょっとすれば、にわかに人が集まる朱鷺守の屋敷を怪訝に思い様子を見に来たこのあたりの住民であるかもしれなかったからだ。
エルンストは慎重にその動きを探った。
まだ、主立った魔力の反応はない。少なくともそれは通常の一般人が普段から放出している魔力の量とパターンを告示している。
(殺すべきか。殺さざるべきか)
エルンストにとってそれが最たる問題だった。
しかし、今のままではその判断は付きそうになかった。
エルンストは、屋敷を伺い続けるそれを朝日が昇るまで監視し続けた。
夜明け後、朝食のための食材を取りに行くと言ってレイリアは丘の頂上の輸送船へと足を運び、その隙間に挟まれていたエルンストの言づてを読み取った。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪