りりなの midnight Circus
「屋敷の南に不振な影あり……か。早速、きたわけだ。監視体制を作っておくべきだね」
打ち合わせ通り、レイリアはその返答を書いた手紙をその隙間に滑り込ませ、格納庫に保存されていた食材を手に丘を下った。
そして、深夜エルンストは再びその影を同じ場所で発見した。
レイリアの返答の通り、かなり隠密性の高い監視装置がそれのそばに置かれ、エルンストは【ストライク・ビューワー】によってその情報を入手した。
とたんに浮かび上がるその詳細なディテールにエルンストは確信を覚えた。
(こいつは、敵だ)
遠くからは確認できなかったその懐から、周りとは違い、ひときわ多くの魔力を放出するものが潜んでいた。
それは間違いない、魔術戦闘を行うためのデバイスだ。
エルンストは、ライフルを構えなおし、初弾を装填した。
(弾頭予測)
情報の少ないフィールドであったが、地形的な複雑さは少なく、しかも距離は1600m程度。
この距離で外していては狙撃手の名折れだと意気込み、彼は呼吸と鼓動を制御し始めた。
いつもの調子で弾を発射すれば、おそらくそれは相手を貫き、その垣根をも破壊してしまうだろう。それではまずい。
密かに囮役になってくれている彼らに申し訳が立たない。
ならば、普段よりも低速で、体内ではじけ飛ばずに停滞するものを選ばなければならない。
(特殊軟化弾をセレクト。弾頭修正)
【ストライク・ビューワー】は薬室に装弾し直されたその弾頭のデータを読み取り、スコープのレティクル(十字照準)に映し出された弾頭の飛翔予測曲線を修正した。
風はほとんどない。
エルンストはそれを狙い、引き金を引き絞った。
風に紛れるほどの微音を立ててそれは闇夜を疾空し、それの肩口を貫いた。
そして、エルンストはそれがその次にどのような行動に出たかを確認することなく、ライフルをおろし、地面に伏せる身をさらに低くし、わずかに吹く風の音に紛れ移動を開始した。
明日の晩からは、自分が目標になるだろうと予測し、彼は慎重にあたりの空間に意識をとけ込ませ、【コールド・アイズ】を使用せずその情報を意識のうちに取り込み始めた。
朝、誰よりも早く起きたレイリアはいち早く南の門を調べ上げ、そこに付着した血痕を隠匿した。
そして、朝食時まで二度寝をし、昨日と同じように輸送船へと向かった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪