りりなの midnight Circus
「一人を排除、そちらの連絡を待つ……か、いよいよだね」
レイリアは手早く手持ちのメモ帳に、「ベルディナ大導師からの返答が在りしだい連絡する」と記すと、昨日とは別の箇所にそれを滑り込ませた。
彼の気配は感じない。この周囲にはいないのか、完璧に環境と同化しこちらが感じられないだけか。
とにもかくにもレイリアはエルンストのすべてを信頼し、今は仲間達をごまかす続けることが自分の仕事だとしてその場を離れた。
ざわざわという草木の揺らぐ音が山中に響き渡る。風が吹いていた。この風がよるまで続いてくれないことを祈りつつ、エルンストはいい加減限界にきつつある意識を、薬さえも利用して呼び起こしながら、その中で動きを探っていた。
日中から何となくその気配はあった。どこか自然とは違う感覚がこの森の中に潜んでいる。
それは、遠目でレイリアの動きも観察していたようだったが、彼が残した手紙には気がつかなかったようだった。
しかし、エルンストもまた監視下にある輸送船に近づくことができず、レイリアからの返答を確認することはできなかった。
しかし、エルンストは感じていた。敵の中に専属スナイパーと超一流の偵察員はいないことを。
確かに、自分たちを監視し暗殺するために送り込まれた相手でもあり、その気配の隠し方と潜伏行動の取り方はどうの入ったものだった。
しかし、どうやら彼らは全く準備のない相手の寝首を刈ることを得意としても自らと同じ立場にして待ち受ける潜伏者に対する対策は不十分だったようだ。
(ならば早々に撤退するべきだ。少なくとも俺ならそうする)
自分たちのようなものは、対策が不十分であるなら何の未練もなく退却し、後日完璧な準備をすませてから相手を上回る戦術をもって相対する。
つまり、連中は素人だとエルンストは感じていた。
いや、時空世界屈指の偵察狙撃手であるエルンストが評価するなら誰もが素人であるとされるだろう。
しかし、相手は複数。エルンストが感じているその数でも少なくとも三人はいる様子だった。
エルンストは、すでに【コールド・アイズ】を待機状態へと戻し、それを情報収集に使っていない。ではなぜ、彼はそこまでのことがわかるのか。それが、彼の持つ希少能力(レア・スキル)の一つ、【空間掌握】の力だった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪