りりなの midnight Circus
エルンストはその行動をつぶさに観察するため、それにさらに接近した。
そして、それが仇となった。彼は接近しすぎた。
距離320m。
エルンストはライフルを構え、それをのぞき込んだ。
「……!!」
エルンストは口から漏れそうになる声を何とか押さえ込み、そのまま音も気にせずその場に倒れ込んだ。
すぐ上を飛び去っていく銃弾の嵐。
(しまった!! 俺としたことが!!!)
発見されたと感じたときにはすでに遅かった。
断続的に発射されるそれは、徐々に徐々に射線をしたへしたへと移していき、後数センチで彼の背中をえぐるほどのところまで持って行かれた。
そして、その瞬間それは止まった。
弾切れ。
引きっぱなし(フルオート)でうち尽くしたそれは、手早く弾倉の交換に入ろうとしたがそれだけの間隙があればエルンストにとっては十分だった。
エルンストは、そのまま身を転がせ、派手に立てる音にもかまわず丘を転げ落ちていった。
さすがに敵もその行動を予測できなかった様子で、不規則な機動で自分へと近づいてくる彼に対して必死に銃弾を浴びせようとするが、焦る手つきではそれに当たるはずもない。
エルンストは転げ落ちる際にライフルを手放し、偽装網(カムラージュネット)をぬぐい去り、腰に差されたナイフを取り出し、敵へと一気に躍りかかった。
立ち上がる際に繰り出した脚撃(ケリ)によりエルンストは敵の武器を明後日の方角へはじきとばし、振り向きざまに反対の足で回し蹴りを放った。
彼は、それを脇に食らい、そばの巨木に身を打ち付けられ激しく咳き込んだ。
エルンストはそれを見逃さず、彼の手を取り足を固め地面へと組み伏せた。
「お前は間違いなく強敵だった!!」
エルンストの最後の言葉を彼はどうとらえただろうか。エルンストは何の躊躇もなく、目を見開きまっすぐと自分を見つめる彼のみぞおちの僅か上にナイフを突き立てる。
ズリュッという不快な感触とともに突き刺されたナイフの両脇から赤の飛沫が夜空を染め上げた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪