りりなの midnight Circus
ヴィータは彼の言う逃げ道の中にエルンストとレイリアの名前が存在していないことを言及した。
「エルンストに関しては、申し訳ないと言うしかないね。君は、すでにこちら側に深く入り込みすぎている。もちろん、その原因の多くは僕たちにあるんだけど。ベルディナ大導師でもこればかりはどうしようもなかった」
エルンストは、
「まあ、当然だな。逃げ道が用意されていても今更何処にも逃げ道はないからな」
といって頷いた。
「そして僕は、こちら側の人間だ。もとより逃げ道などない」
レイリアの言葉にはすでに決意をすませた者の気迫が込められていた。
「僕たちは今から6時間後、地球時間13:00にここを出発します。それまでに決めておいてください」
レイリアはそう言い残すと客間を後にする。
エルンストも黙って彼について客間を出ようとするが、そんな彼の裾を何者かがつかみ取った。
「……どうした、アリシア」
エルンストのジャケットの裾をつかんだアリシアは、うつむいたまま小さな声で懇願する。
「今日は、あたしの側にいてほしいの」
エルンストがなぜと聞くと、アリシアはキッと彼をにらみつけ、
「デ、デバイスの調整よ。最終調整。今ぐらいしか時間がないでしょう?」
「しかし、お前はそれでいいのか。もう戻れない道だ」
「あたしが逃げるとでもおもってんの? 馬鹿にしてるわ」
「そうか。だがデバイスの調整はエリオンとすればいいのではないのか? 最終調整というよりは、連携の最終確認をした方が有意義だと思うのだが」
「エ、エリィとはいつもやってるからいいの。たまには違う人の意見も取り入れなくちゃいけないでしょう!? とにかく付き合いなさい!」
アリシアは腕を振り回しながらエルンストを外へと引っ張っていく。エルンストは、一度だけエリオンの表情を伺うが、エリオンは頷いて二人を見送った。
「お前の姉貴も積極的になったな。弟のお前としては少し寂しいんじゃねぇのか?」
朱鷺守は、座布団から部屋の隅の柱に背中を預けながらプカプカと煙草を嗜んでいた。
「確かに、そうですけど。僕たちは今までお互いに依存しすぎてきた。だから、アリスが他の人に興味を持ったことは、僕としては嬉しいと思います。僕らは一度お互いを卒業しなければならない。そう思っていましたから」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪