りりなの midnight Circus
第二十五話 フォートレス(前)
時空世界、ターミナルエリア4312号〈エメリア共和国〉、政府管轄外空域。
岩山に偽装されたそこは、今となってはその周囲に無数の飛行体を携える巨大な要塞と化していた。
先行偵察に出張ったエルンストとアリシアはその様子を見てただあっけにとられるしかなかった。
「これは、思った以上だったな」
「なに? あのガジェットの数。異常じゃない」
空を埋め尽くす飛行ガジェットの総数はすでに5000を上回っているだろうか。
エルンストはその大半は幻像なのではないかと観察を続けたが、そのどれもが確かな実体と質量を持つことを確認し、敵の戦力規模を思いやりさらに途方に暮れた。
「これでは、地上も制圧されているだろう。さて、レイリア。この要塞。どう攻める?」
レイリアとの回線は開かれておらず、その答えを出す者はいなかった。
「どうすんの? エルンスト?」
先行偵察を提案したエルンストに強引についてきたアリシアは緊張のあまり自分で判断する余裕はなかった。
「とにかく、敵の大まかな規模と要塞の外観は捉えられた。いったん帰投して報告だな」
エルンストはそう伝えると、行くぞといって小高い丘の頂上から反対側の谷へと足を進めた。
要塞より数キロ先にあるスラムの街でエルンストとアリシアは仲間と合流し、それを報告した。
スラムの難民らしい煤けた服がようやく板に付いてきた彼らは、それを聞いてもやはりピンとはこなかったようだ。
「航空ガジェットが5000って、それは何かの間違いじゃないのか?」
レイリアがそういうのも納得できる。しかし、それは幻影でも模擬体(ダミー)でもないことをエルンストは伝えた。
「エルンスト君が言うのなら間違いはないよ。敵は総数5000。外だけでそれなんだから、中はどうなっているか。想像はしたくないね」
なのははそうつぶやいた。彼女はどこから調達してきたのか、その姿はハデな柄の入ったタンクトップを上に着て、下はきわどく裁断されたジーンズ地のホットパンツに、サングラスまでかけて、まるでその姿は遊び慣れた少女のような様子を見せる。
「だがな、5000なんて数。このメンバーじゃまともにあいてなんてしてられねぇぞ」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪