りりなの midnight Circus
レイリアが下した判断は実にシンプルでオーソドックスなものだった。しかし、シンプルな作戦はそれだけ堅牢であること意味する。特にここにいるメンバーはどちらかといえば派手な戦闘を得意とする者達だ。
「班分けは、潜入班はエルンスト単独。おそらく、それがもっとも効率がよいはずです。残りのものは外部にて陽動を行います」
レイリアはエルンストに目を向けた。エルンストは何も言わず、一度だけ頷く。
エルンストの単独潜入。それに異を唱える者は居なかった。おそらく、この中で誰が彼について行っても彼の足を引っ張るだけだと言うことが理解されているからだろう。
空戦S+ランクの魔術師である高町なのはを筆頭に、陸戦AAAランクのヴィータ、空戦AAAランクである朱鷺守。そして、双子のリーファとレイリアもそれぞれAランクを超える魔導師である。
陽動を行うにはまさにうってつけともいえる集団に違いない。
「作戦開始は明朝現地時間5:00時。それまでに各員コンディションを万全にしておいてください」
レイリアは最後にそう伝え、部屋に集まった面々は「了解」の一言を残し、エルンストとレイリアを置いて退室した。
全員が退室した後、レイリアは少し疲れた様子でため息を一つ付き、木造の椅子に深く身を沈め込ませた。
「緊張しているのか?」
エルンストはそんな彼の様子に口を挟んだ。
「緊張は、しているね。基本的に僕は臆病だから、自分で決めた作戦がうまくいくかどうか心配だよ」
「臆病であるのなら俺もそうに違いない。だが、お前ならあらゆることを笑顔でやり遂げるものだと思っていた。殺しもな」
レイリアは面を上げ、そしていつもの笑顔を浮かべた。
「ああ、そうだね。君の言うとおりだ。ここのところ今までしてこなかったことばかりを経験して気を張りすぎていたのかな」
エルンストが情報収集とその運用を切り札とするように、レイリアにも一つの切り札があった。
それは、あらゆる者の警戒を解くその作られた笑顔だった。
レイリアもエルンストとはカテゴリーの違う暗殺者である。その笑みと人当たりのよい人格を武器にして彼はあらゆる組織、集団にとけ込みすべての信頼をえることで仕事をしてきた。
時には寝食を共にしていた女性の身辺からすべての情報を取得した後、それを殺害して立ち去ったこともある。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪