りりなの midnight Circus
デバイスをセットオフさせたアリシアはその束縛をもろに受け、何もなす事もできずただ傅くだけだった。その眼に浮かぶ一条の涙は、何もできない自分に対する憤りなのか。
「僕たちを、裏切るのですか?」
体を縛されていてもなお冷静さを崩さないエリオンの視線がレイリアに突き立てられる。
「裏切りではないよ、これが僕の目的だ。ただそれだけのことだ」
レイリアはそういうと再び自らの拳銃型デバイス【トーラス】を構え、それを身動きできない彼らに対して撃ち込んだ。
その弾頭が提供するものは、彼らに対する束縛を強める結界だった。
「その通り。彼はもとよりこちら側の人間だ」
その声と共に、レイリアの側に転移する者があった。それは、突然床に描かれた魔法陣として光に包まれその姿が徐々に明らかになっていく。
そして、その姿が完全に明らかになったとき、彼らは息を飲み込んだ。
「ご苦労だったな、レイリア。君の有能さには脱帽だよ」
そこに立っていた者、それは特務機動中隊の司令官。南雲白貴だった。
「僕の命を人質に取っておきながらよく言うよ。僕は初めから依頼主(クライアント)を裏切ったりはしないのに」
レイリアは両手を掲げ、肩を下ろしそうつぶやいた。
「仕事柄、人を信頼することができなくてね。残念ながらそれを取り去ることはできないが、その分君は多大な力を得ることになった。それに関しては感謝してもらいたいものだな」
南雲はそう鼻で笑い、捕縛された彼らを一瞥した。
「Fの遺産、戦闘機人、聖王のゆりかご。それらを知っている君たちを生かしておくことは私の利益に多大な障害を残す者になるのでね。リカルド・マックフォートが暗殺されたとき、奴の名を使っていたことが公になると拙い。だから君たちには死んでもらうこととした」
なのは達は歯ぎしりをして彼をにらみつけた。
「だが、君たちをみすみす殺してしまうことも利益に反することだというレイリアの提案を受けてね。そこで、君たちには実験体になってもらうこととなるよ。君たちの能力、技術。それらを今後の兵器運用に有効利用させてもらおう。そうすれば私にも莫大な利益が舞い込むこととなる」
「利益、利益……。お前の頭ん中にはそれしかねぇのかよ! そうやってどれだけの命をもてあそんできた」
朱鷺守は口の縁ににじみ出る血をかみしめ、泥を吐くようにそれを言葉にした。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪