りりなの midnight Circus
エルンストは、「そうか」と呟き、【クリミナル・エア】のセッティングを変更した。
事実上、【クリミナル・エア】の発射体の速度には上限はない。もちろん、物理的に光速を超えることはできないが、あげようと思えば何処までもあげることはできる。
ただし、それは【クリミナル・エア】そのものを犠牲にすることもいとわなければだ。
発射体を加速するためには薬室(チャンバー)と銃身(バレル)に高強度の力場を発生させなければならない。そして、その力場の力はその二者にも多大な影響を与える。
つまり、強力な地場を発生させたコイルはその力場のために自ら崩壊させることと同じように、弾速を向上させるためにはそれだけ強力な力場を発生させる必要があり、それは先のコイルと同様、【クリミナル・エア】そのものを崩壊させる危険性もある。
エルンストは、【ストライク・ビューワー】を【クリミナル・エア】から取り外し、その銃身をまっすぐと構えた。
弾速5100m/s。その銃口エネルギーは、およそ2.6MJにも達する。21世紀初頭の地球で使用されていた50口径対物狙撃銃の銃口エネルギーは、確かせいぜい15kJ程度でしかなかったはずだ。
発射体を0〜5100m/sまで、銃身長僅か1000mmで加速させなければならない。それに必要な加重はおよそ265トン。
そして、必要な出力は単純計算で1716GW(ギガ・ワット)。
不可能だとエルンストは悟った。そんな魔力を出力できる人間など、この時空世界を見回しても存在しないはずだ。
(カートリッジロードを要求する)
【クリミナル・エア】は静かにそう提案した。
エルンストはそれ見やった。そして、思い出した。レイリアが最後の夜に自分に手渡した切り札。キハイル式カートリッジのことを。
エルンストは腰のポーチに探り当て、それを取り出した。
総数5発。ベルカ式カートリッジと併用されたそれは確かに、エルンストの不足する魔力を補うだけの容量と出力を兼ね添えていた。
(いいだろう、最後の賭だ。クリミナル・エア。頼んだぞ)
エルンストは静かにそう念じると、それらをまとめて薬室へと送り込んだ。
クリミナル・エアはすぐさまそのチャンバーの構造を変化させ、それらカートリッジシステムを連続運用できる仕様へと変更する。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪