りりなの midnight Circus
エピローグ
「ああ、そうだな。今回はまあ、何とかなったか。その代わり優秀な手駒を二つも失ってしまった。早急に手駒を揃えなければならんな、またよろしく頼むよ」
「分かってる。ああ、その通りだ。問題ないよ、アグリゲット、全ては事も無しだ」
「そうだな。ああ、そっちのかみさんにもよろしく言っておいてくれ。今回は随分迷惑をかけたってな。俺の娘か? 元気すぎてこっちが参るよ、まったく」
「了解だ、アグリゲット。……時空の海に平穏あれ……そのために我々は全てを投げだそう……この命を掛けて……全ての命を掛けて……」
そうしてベルディナ・アーク・ブルーネスは受話器を下ろした。
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時空管理局の教導隊本部。ベルディナ・アーク・ブルーネスが再び座る執務室をノックするものがあった。
「入れ」
ベルディナは既にその来客を知っており、そこから顔を出した人物を迎え入れた。
「失礼します」
幾分やつれた表情をしているその女性、高町なのははそれでも2週間前のあのときに比べれば幾分かましな顔つきを取りもしつつあるようだ。
「調子はどうかな? 高町教導武官次補」
あの事件の後、高町なのはは教導評議会により、教導武官次補の任命を受けた。それは事実上の昇進であり、ベルディナにとってはなのはの口止めをしておくための材料でもあった。
あの事件は、公では発生しなかったことにされていた。浮遊要塞【永遠の箱船】は時空連合管轄内で起こった大規模な災害として処理され、高町なのは達はその事件の重要参考人として時空連合の縛となった。
しかし、その事件の背後に何ら犯罪とつながるものが発見されなかったと結論を下した時空連合はその身柄を時空管理局へ返還された。
時空連合と時空管理局はこの災害の主任格であると予想される、レイリア・フォートとエルンスト・カーネルを第一級広域指名手配し現在も捜索中だ。
エルンストは結局あの後発見されなかった。【永遠の箱船】の残骸は巨大な岩山となり、なのは達は時空連合の捕縛に会うまで彼を捜索していた。
あれほど生きることがつらかったときはないとなのはは今になって思い出す。
なのははベルディナとこれ以上話すことはないとして、手に持った封筒を静かに彼に差し出した。
辞表とかかれたそれをベルディナは見下ろし、一つだけため息をついた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪