りりなの midnight Circus
なのはも少し拍子抜けした様子だったが、そのデバイスの表面に記載されたキハイルの文字に少し目を取られていた。
「はい、あくまで情報収集を主眼に置かれたデバイスです。このデバイスでは戦闘は不可能と考えます」
エルンストはそう言いつつ腕にはめられた時計を目にした。彼の本来のデバイス、【クリミナル・エア】と【ストライク・ビューワー】の待機状態であるそれは現在凍結中にあった。いや、【ストライク・ビューワー】に関しては凍結中であっても、情報収集と処理の機能は使用することが出来るが、スコープとしての機能は麻痺している状態だ。【コールド・アイズ】と情報結合して、その処理をすることには問題はない。
ここに来る前に何度もその凍結解除を試してみたが、その解除には特別な暗号が必要になっており、彼ではどうしてもそれを解除することが出来ない。
おそらく、ベルディナ・アーク・ブルーネスの仕業だろうと彼は推測した。ならば、この訓練期間中に自分はこの二つを使用することは禁じられているのだと彼は悟った。
「情報収集ねぇ。つかえんのか、それ?」
ヴィータの胡散臭そうな物言いに、エルンストは少しだけカチンと来て言い返した。
「戦場から情報というものが完全に無くなってしまえば、これの使い道はありません」
情報は力だ。如何なる戦力を持つものであっても情報を的確に運用できなければ全く意味がない。故に、信頼性のある情報を収集する立場にあるものは事実上戦場を支配するといっても過言ではない。
これも彼が狙撃手訓練時代に聞かされた教訓の一つだった。
エルンストは常にこれが正しいと実感する毎日を送っていた。彼らが収集してきた情報は確実に戦場の全土に行き渡り、そこにいる全員を的確にサポートしてきたという自信があり、プライドもそこにあった。
ヴィータの物言いは、それまでの自分、死んでいった相棒達をけなされたように思えたのだ。
「ヴィータちゃん、情報というのはね作戦の全部に関わる重要な要素なんだよ。そんなこと言っちゃダメ。ごめんね、エルンスト君」
なのはの言葉にヴィータは「悪かったよ」と言って黙った。
「だけど、どうしようかな。私としては一度模擬戦をしてエルンスト君の戦力を把握しようかなって思ってたんだけど」
「それは不可能ですね。これではまともに戦えません」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪