りりなの midnight Circus
彼に代わる人材がそうそう転がっているわけはないが、どこかで見つけてこなければならない。
ニコルとの出会いは偶然の産物だった。それ以来エルンストはいいように利用しているが、おそらくニコルにとっても自分はその程度のものだろうと高をくくっていた。
しかし、ニコルの次の言葉にエルンストはその推測が甘かったことに気づかされる。
「何処が良い? せっかくだから、遊べるところが良いよな。2週間だと、地球のベガスなんてどうだ? あそこはクールだぜ」
地球のラスベガス。エルンストも人伝えに聞いたことはあった。ギャンブルの王国としてその筋の人間にとっては有名なところだ。ミッドチルダは何かと規制が厳しい事も有名で、あの自由な国風を憧れるものは首都クラナガンにいても数多いと聞く。
しかし、エルンストにとって気になったのはそのことではなく、ニコルの口にした言葉だった。
「何故、俺に聞く? 行くなら勝手に行けばいい」
「つれないこと言うなよな。お前も一緒に決まってるだろ?」
「なぜ?」
「あのなあ、友達(ダチ)を遊びに誘うのに理由が必要なのか?」
エルンストは思わず彼の方に面を向けた。
おそらく自分の表情は、隣に立つ司令官が突然狙撃手に撃たれた時の副司令官のような表情をしているだろうと予測が出来るが、この男は何を言った?
「な?」
ニヤッと笑う彼は、まるでしてやったりと言わんばかりの表情でエルンスト見ていたがその目には冗談が混じっている様子はなかった。
つまり、ニコルは、本気で、他でもないエルンストを、旅行に誘っている、ということだった。
「悪くはないな。お前に任せる」
だからだろうか、エルンストは柄にもなくその誘いに乗ることとした。一生に一度ぐらいはそういうことがあっても良いかもしれない。
ニコルは、「おう」と答え、再びその手に持つ双眼鏡を手にした。
「おい、エルンスト。見えたぜ」
ニコルの声に、エルンストは気を取り直すと傍らに置いてあったライフルを取り上げ、そのスコープを覗き込んだ。
「渓谷の入り口。北東15°方向。俯角10°。あの岩陰だ」
エルンストはその指示に従い、ライフルを僅かに移動させた。奥深い山の森の中に一部だけぽっかりと開けられた窪地には、周囲を支配する木々の侵食を免れた場所があった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪