りりなの midnight Circus
エルンストが最初それを見た時、まるででかいすり鉢だと思ったものだった。
そして、そのすり鉢のほぼ中央部分には、岩陰や茂みに巧妙にカモフラージュされた人工物。今回、彼らがターゲットにする組織の潜伏地がそこに存在していた。
「局の情報部は優秀だな。確認した、リカルド・マックフォートだ」
ニコルは、高倍率の多用途双眼鏡型デバイスが映し出した人物と手元の写真を見比べ、そう報告した。
エルンストもスコープをズームし、フォーカスを調整するとその顔をよく確かめた。間違いない、奴だ、とエルンストもそう判断を下した。
先の事件。ジェイル・スカリエッティが引き起こした聖王の揺りかご事件の重要参考人で、奴がスカリエッティに武器や違法物の横流しを行っていたらしい。それだけではなく、リカルドはそれまでに多くの反政府ゲリラやテロリストに武器を供給していた商人でもある。
エルンストとニコルがはいつくばる丘の頂上からリカルドが下りたヘリまで、およそ2.3km。エルンストは入念に作り込んだ地形図とリカルド達がいる場所を比べ、マンターゲットとヘリの見た目の大きさと環境補正からその距離を割り出した。
ニコルも同じ距離を目算し、二人はここで仕留めることに決めた。
エルンストはライフルを構え、銃床を肩に当てた。ライフルの前床には衣服などが入れられたサックが置かれ、エルンストはそれを依託物として空いた左腕を銃床に添え、チークパットに頬をすりつけた。
「風は安定している。右からの風、風速2。距離2.3km。少し上、だいたい中心から2mmを狙え。」
エルンストは頷くことなく、先程までリカルドの心臓を狙っていたレティクルの中心を、それから2mmほど上げた。レティクル上では僅かに2mmだが、それが着弾点を数十cm上にずらす。
彼の持つライフル型デバイスは一般的なものと異なり、人工知能のような機能が搭載されていない。いや、元々はサウンドインターフェイスのシステムが搭載されていたのだが、こういった任務ではエルンストにとっては煩わしいだけだった。
「風速+0.5修正」
ニコルの持つ双眼鏡型デバイスはその周囲の環境の情報を読み取る機能が搭載されている。エルンストは僅かに頷くと、ほんの少しだけライフルを右に移動させた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪