りりなの midnight Circus
人手不足といわれればエルンストも口を噤むしか他がなかった。しかし、人手不足といわれればなにも機動中隊だけの話ではないだろう。実際、この陸士教導隊も慢性的な人手不足に悩まされている現場であるから、いちいち他の部隊で人手不足だといわれてすぐさま出向となっては何時の日か教導隊から人がいなくなってしまうのではないか。
エルンストは、つまり、現在の新人の訓練よりも圧倒的に優先されるべき理由がそこに転がっているのだということを察し、それは同時に自分たちは知らなくてもいいような事情であると理解した。
故にエルンストは、
「了解」
とただ一言告げて任務の受諾を宣言した。
「ですが、あまりにも突然すぎます。私たちの仕事もありますし」
しかし、なのはとヴィータにはそれが理解できなかった様子だ。
知るべき情報はつぶさに入手する必要があるが、知らなくてもいい、知るべきではない情報は入手する必要はなく、それに頭を悩ませる必要もない。それが徹底されることで軍隊とは権威を保つことが出来るのだと、エルンストはCD(コンバット・ドリル)の一節を思い返していた。
「既に決定事項だ」
ベルディナはなのはの物言いにピシャッとドアを閉じると、間髪入れず、
「以上、通達終わり。何か質問は?」
と三人をにらみつけた。
そこまでいわれてしまえば彼らに発言権はなく、三人は直立して敬礼を返した。
「ありません。任務了解、直ちに行動に移ります」
「よろしい、カーネル一等陸士以外の退室を許可する」
俺だけ何で? と思いつつ、エルンストは再度敬礼をし、その場で安めの体勢をとった。
なのはとヴィータは、ちらっとエルンストを見るが、エルンストは横目で「さっさと行け」と促すと、二人もまた再度敬礼をし、速やかに部屋から立ち去った。
「さて、君はもう既に知っているだろうが。こちらの都合で、君のデバイスは一部の機能を除いて凍結させてもらっている。何度か凍結解除を試みたようだが。成功したか?」
エルンストは、やはりこいつの差し金かと口の中で小さく舌打ちをし、
「成功はしませんでした。自分の能力不足です」
と正直に答えた。
「そうであってくれなければこちらが困るところだった。君の能力不足に感謝しよう」
ベルディナはニヤッと笑うと、机の引き出しを上げ、先程とは違う空間投影モニターを取り出すとそれを開いた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪