りりなの midnight Circus
一つのターゲットに対して平均6発。近距離から徐々に遠距離に行くにつれ学習を蓄積するデバイス達でも、3000mもの距離となるとそのばらつきは最大でも80mmにもなってしまう。
それでもそれがマンターゲットであれば何とか打ち落とすことは出来るだろう。しかし、それ以上ともなると、精密狙撃を心がけるのであれば避けるべき距離であった。
エルンストは連続発射による熱で陽炎を上げる銃身を下ろし、【コールド・アイズ】を用いてそれを確認した。
先程から【クリミナル・エア】から、
《銃身加熱警告》
が出されている。
エルンストは、フレームをオープンさせその銃身を外にさらけ出すことでそれを冷却した。通常のデバイスが行う排気による冷却はこれにはしない方が良い。急激な冷却は予期せぬ銃身のゆがみに繋がり、一度でもそれをしてしまえばこれはとても使えるものではなくなってしまうからだ。
冷干鍛造によって製作された構造材なら多少のハードワークにも耐えられるが、エルンストの使う超精密銃身は非常にデリケートであるためむやみなハードワークを行うわけにはいかない。
銃身から立ち上る膨大な陽炎を見下ろして、エルンストはしばらくの休憩を決めた。銃身が冷却されれば次はクリーニングが待ち受けている。
バレルにライフリングが刻まれている時代とは違い、それにはそれほどの精密作業は必要としないが気をつけて執り行わなければならのは同じ事だ。
それによってCCB(Clean and Cool Barrel:綺麗で十分冷えた銃身)は完成し、それを持って彼は再び射撃の世界へと陥っていく。
それは陽光が沈むまで行われた。
***
その光景を少しの間眺めていたなのはとヴィータは驚愕するより他がなかった。
それは彼の射撃技能のみにあらず、デバイスの運用方法だった。
「あいつ、やっぱり隠してやがった。何が戦闘用のデバイスを持っていないだ。大嘘つきめ」
ヴィータは何より、彼が戦闘用のデバイスを隠し持っていたことに腹を立てていた。しかし、よく思い返せば彼は【コールド・アイズ】を見せ、これは戦闘用のデバイスではないと話しただけで他にデバイスを持っていないとかそれらは戦闘用のデバイスではないとは一言も言っていないことに気がついて、更に歯ぎしりをした。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪