りりなの midnight Circus
第八話 彼の真意
結局2週間ほどしか滞在しなかった自室の荷物をまとめることはそれほど労力を要することではなかった。
荷物を引き払った前と後でそれほど様子を変化させなかった部屋を眺め、なのははここでの日の浅さを実感するばかりだった。
ヴィータはぬいぐるみや洋服などたった二週間でいろいろと持ち込んでいた様子で、それを手伝ったなのはも少しは自分の部屋を作るべきだったかなと思うほどだった。
エルンストは殆ど着の身着のままといった様子で、首と腕につけられたデバイス以外は服のポケットに入る程度の荷物しか持っていない様子だった。
着替えとかはどうするのだろうと思うなのはに、エルンストは現地調達だと答え、それまで持っていた数少ない着替えはこの際に全て処分してしまったようだった。
もったいないことするなぁ、それじゃあ逆に不便じゃないかな。と思ったところでなのはは大きなあくびをついてしまった。
慌てて口を手で押さえるが、隣に座るヴィータは既に居眠りをしている様子でそれを見ていなかった。
「寝不足ですか? 高町一尉」
車の助手席に座るエルンストはそんな彼女の様子をルームミラーで見ながらそう聞いた。
「あは、ちょっとね。昨日はちょっと夜更かしをしちゃって」
照れくさそうに苦笑いを浮かべるなのはに、エルンストは無感情にただ「そうですか」というだけだった。
昨日の夜は、突然の移転が決まったなのは達を送るため、それまで持っていた訓練生がお別れ会などを催してくれたのだった。
それは、単に施設の食堂を借り切った簡素なパーティーだったが、そこの料理長も少ない食材から見栄えの良い料理を数多く振る舞ってくれたこともあり大盛り上がりだった。
その日ばかりはベルディナも、
「羽目を外さない程度なら騒いでもかまわん」
とお墨付きを出し、その代わりに自分も混ぜろとそのパーティーに乗り込んでいた。
そういっていたベルディナだが、その中で一番羽目を外して騒いでいたのは彼だったような気がする。
そして、ベルディナが持ち出したワインを勧められる内に、なのはもガラにもなく羽目を外してしまったということだ。
ヴィータはワインを少し口に含んだとたんに目を回して寝込んでしまった様子だったが、それを部屋へ運んだのは訓練生のカリスとクラントだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪