りりなの midnight Circus
確かにあの二人は、センターアタッカーとしてヴィータに多くの教えを受けていた。ヴィータはとても厳しく二人を指導したが、その指導には深い思いやりを感じることが出来たのだろう。なのはとヴィータが出向となった知らせを聞いて一番悲しんでいたのは、クラント、カリス、ノア、そしてエルトだったことは想像に難くない。
本当に思いやりのある暖かい送別会だった。
おそらく、彼らはなのは達が出向から戻るまでに訓練を終えて実働部隊に所属することになるだろう。彼らと会うのはかなり先になるかも知れない。せめて、彼らの行く末の無事を祈り、なのはは酔いのまま眠りこけた。
その中にあってもエルンストは暖かな輪から一歩外れ、ただ一人で黙々と食事と飲み物を口にしているだけだった。
時折現れる彼の指導を受けた訓練生、主にノアとエルトだったが、そんな彼らにもいつもの調子で愛想なく接するエルンスト見て、なのははどうしてそこまで孤立を選ぶのか不思議に思った。
そして、彼は消灯を過ぎても納まることのない喧噪を離れ、一人宿舎へと戻っていった。
何となく寂しい。もう少し心を開いてくれても良いと思う。
「ねえ、エルンスト君」
気がついた時にはなのははエルンストに声をかけていた。
「何でしょう」
いつもの調子だった。彼はルームミラーでなのはを一瞥するばかりで彼女と目を合わせようとしない。
「君は、私たちを信頼してくれはいないのかな」
そんなことを聞くつもりではなかった。だが、なのはの口は止まることを知らなかった。
エルンストは少しだけ逡巡し、そして口を開いた。
「信用はしています。しかし、信頼しているかと聞かれれば、そうでもないとしか自分には答えを用意することは出来ません」
エルンストの言葉に躊躇はなかった。それでも多少の婉曲を織り交ぜたのは彼の思いやりだったのだろうか。
「信用はしているか……、それはあくまで私たちの技術、戦力を信用しているということだよね。本当の意味で信頼はされていないということかな」
信用と信頼の線引きは曖昧に思える。しかし、エルンストの答えからはなのは達はまだまだ頼れる存在ではないということが見え隠れしていた。
「そうなります、高町一尉」
信じられていないということは悲しいことだったが、少なくとも信用はされていると分かり、なのは少しだけ気が楽になった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪