りりなの midnight Circus
エルンストのプロフィールを熟読していた南雲は、実際エルンストを見るまでこの人物は多少人格に問題はありつつもごく平凡な陸士なのだろうと推察していた。
しかし、エルンストの気概、その愕然とも言える潔さにはその評価を改めなければならないと直感した。
そして、何となくだが彼は思った。今回の人事移動は、高町なのはと八神ヴィータばかりに目をとられがちだったが、本来の所彼という人物を巧妙にカムフラージュするための単なる布石なのではないかと。
(もしもそれが真実なら、そのことを八神二佐は知っているのだろうか)
南雲はいまだ雑談混じりの近状報告を続けるはやて、なのは、ヴィータをに目を向けそれを思った。
そんな折、部隊長室のドアが叩かれる音が部屋に響いた。
「入り給え」
今度は南雲がそれに答え、それに呼応して扉に設えられたモーターの駆動音が響き、その先からは一人の長身の女性が顔を見せた。
「ああ、シグナム。ええ所に来たな。こちら、高町一等空尉とヴィータ二等陸尉、それとエルンスト一等陸士や」
はやてはその来室者に笑顔を見せると、新たな隊員を一人ずつ紹介していった。
シグナムと呼ばれた長身の女性は、そのまま背筋を伸ばし油断のない視線で三人を見回すと、とても綺麗な姿勢で敬礼を送った。
「お久しぶりです、高町一等空尉、そしてヴィータ二等陸尉。君とは初めてになるかエルンスト一等陸士。あなたたちと任務を共に出来て嬉しく思います」
なのはとヴィータはそんなシグナムの相変わらずの堅苦しい口調に懐かしさを感じ、敬礼と共に握手を交わした。
「シグナムは今、武装A(アルファ)分隊の隊長をしてもらってるんよ。せや、シグナム。早速やけどなのはちゃん達を案内してくれるか。後のことは頼むさかい、あんじょうしたって」
シグナムは自らの主の言葉に敬礼ではなく面を下げ答えた。
「了承いたしました、主はやて。では、高町と他。私に着いてくるいい」
エルンストは、彼女がはやてを"主"と呼ぶことに若干の疑問を抱きつつ、なのはとヴィータと共にその紅髪の騎士の後についていくこととした。
「本部施設の構造自体は、かつての機動六課と変わらない。しかし、その中でもかなり近代施設にアップデートされてはいるが」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪