二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

りりなの midnight Circus

INDEX|59ページ/187ページ|

次のページ前のページ
 

第十話 執務艦長


 時空の海はまるでなにも景色のない、重力さえも存在しない空のようだ。更に言えば宇宙空間のような光や粒子の嵐さえも存在しない。正に空虚と言ってもいい、そんな世界だった。
 平行世界、異世界の間に広がる宇宙よりも広大な時空間の海はただ、静寂を保つばかりでなんの面白みもない。実際、数週間の航海といっても戦闘など起こる方が珍しいという状況では、航海士にとって最大の敵となるものは日常の平穏に付随する倦怠感だった。
 故に、時空航行艦の乗組員の内、それなりの地位を持つ、正確には艦内に自室を持つ乗組員にはある程度の私物の持ち込みが許可されている。
 時空管理局本局勤めの執務艦長、フェイト・T・ハラオウンも当初は艦に私物を持ち込むことはモラルに反するのではないかと思っていたが、実際ここで勤務を続ける内にこれがなければ長期間の航海任務などとうてい行えないなと思い直すようになった。
 地上の航海士なら、それよりは状況的にましだったかも知れない。確かになにもない海の平原は時空間の海と大差ないような二思えるが、その実海にはたくさんの神秘が隠され、船乗りにはその神秘に触れる機会が用意されているのだから。洋上停泊であれば、許可さえ下りれば海水浴や日光浴を楽しめばいいし、場合によれば釣りをたしなむことも出来る。
 水平線より上る太陽の光がその逆側の水平線へと沈む様子は、正に見る者を飽きさせないドラマとしてそこにあるだろう。
 退屈こそ人間の最大にして最強の敵である。どこかでそんなことがかかれた本も読んだことがある。
 それは、地上の船乗りが書き記した言葉だったとフェイトは記憶しているが、むしろ自分たちにこそそれは当てはまるだろう。
 フェイトはここに来て何度も何度も読み返した兄、クロノ・ハラオウンの手紙から顔を上げると、机の上の端末から自分を呼び出す音が響いている事に気がつき、それを仕舞い、それと向き合って回線を開いた。
「艦長、そろそろ艦橋(ブリッヂ)にお戻りください。そろそろ到着になります」
 フェイトの補佐をする彼女の後輩、シャリオ・フィニーノ務官が艦橋の様子を背景にしモニターに映し出された。
 フェイトはそのモニターの隅にある時刻表示に目を向け、そろそろ時間かと思う。
「分かったわ、シャーリー。すぐに行きます。ありがとう」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪