りりなの midnight Circus
ニコルもそれに気がついたのか、既に待機モードに移行させていた自身のデバイスを再び元の形に戻しそれを覗き込んだ。
最初、それは鳥のように見えた。4羽の鳥が交互に位置を入れ替えつつ長い道のりを渡り行く、その様は彼にとってなじみ深いものだったが、それが次第に鳥の大きさより大きな身体を持ち、その手には見慣れたものが握られていることに気づいた頃には、彼は既にライフルを構えていた。
「航空魔導師だって? 何だってここに……。こんな所で飛行訓練なんてありえねぇぞ」
ニコルは情報部から与えられた情報を何度も何度も思い返し、その情報にはそれらの存在はあり得なかった。
「あいつ等のデバイスをよく見てみろ。あれは、時空管理局の制式モデルではない。それに、あのレリーフは見覚えがある」
あれは敵か、それとも敵ではないか。二人はあれが味方ではあり得ないと言うことだけは分かっていたが、はたしてあれが自分たちを狙うものかそれとも放置しておいてもかまわないものか、その確信が必要だった。
「ナックルハート・デバイス社。リカルドの会社じゃねぇか」
「既に事業解体をされた会社の生き残りか、リカルドの子飼いか。放置しておくには危険だ」
エルンストは、どうする? とニコルに目をやった。この場合、事の決定権はニコルに与えられている。
「とにかく、撤退だ。気づかれずに逃げられたらそれでいい」
確かにそれは的確な判断だった。相手は四人でこちらは二人。それだけで数的不利な状況であるし、彼らに与えられた任務はあくまでリカルドの暗殺だけだ。
不要な戦闘は避けるのが彼らの美学とされているが、今回ばかりは状況がそれを許さなかった。
「撃ってきた」
エルンストは、空を舞う一人がデバイスを掲げその先端が光るのを確認した。
「こっちの位置が感づかれたか?」
ニコルも双眼鏡をのぞき込み、発射された魔法弾の行方を追った。
「いや、闇雲に撃っているだけのようだ」
一人が放った魔法弾は、二人のいる場所からみてまるで明後日の方角へと消えた。しかし、まぐれ当たりを警戒する程度にはその方向は合っている。
その四体の魔導師は複雑な航空機動(マニューバ)を描きながら、耐えることなく魔法弾を発射し始める。
着弾までおよそ5秒。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪