りりなの midnight Circus
距離、およそ3.5km。それはエルンストの有効射程ギリギリの範囲だった。
「とにかく、応戦するぞ。まぐれ当たりって事もある」
ニコルは再びはいつくばり、最初に撃ってきた一人をターゲットに選定した。
敵はこちらがスナイパーであることを知っているのだろうか。一発撃つごとにその位置を変え、まるでデタラメな軌道を描き飛び続ける。そのため、わずか四人で可能となる砲撃など、飽和攻撃とはほど遠いものだったが、その着弾の威力からしてニコルは手合いの魔導師がおよそ空戦B+〜Aランクだと当たりをつけた。
(なるほど、さすがリカルドの子飼い。優秀だ)
相手の照準をずらすための機動は本来なら乱数回避が徹底されるものだが、人間である以上その中でもどうしても一定のテンポというものが発生する。
ニコルの双眼鏡型デバイス【コールド・アイズ】はターゲットをロックし、その軌道パターンを学習し、その次の瞬間の位置を予測し続ける。
ニコルは、それを口答で告げるにはあまりにも状況が動的すぎるため、エルンストには無断で彼のデバイスと自分のデバイスの情報をリアルタイムで共有することとした。
突然、スコープに現れた敵の軌道予測曲線にエルンストは一瞬面食らうが、ニコルの仕業だと言うことは目に見えて明らかだったため何も言わずにその軌道予測曲線に自身のライフルを合わせた。
エルンストのデバイスは二つに分かれ、それぞれが独自に情報共有をしつつ活動している。一つはライフル銃型デバイス【クリミナル・エア】、そしてもう一つは単眼スコープ型デバイス【ストライク・ビューワー】だ。
そして、ストライク・ビューワーは様々な監視装置と情報共有することによって圧倒的な視界を持ち主に提供する。故に、その機能の大半は情報処理にあてがわれ、実際スコープとしての性能は高価な一般的光学スコープと大差ない。
新開発されたキハイル式デバイスシステムの恩恵に感謝するべきだとエルンストは思った。
故に、ニコルはエルンストの視界の一部となり常に彼と共にある。
エルンストは引き金を引き絞り最初のターゲットを撃墜した。真っ赤にはじけ飛ぶ元航空魔導師はまるで、アルカリ金属を含む花火のようにはじけ飛び地上へとゆっくり落下していく。
「次、すぐとなり」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪