りりなの midnight Circus
フェイトも次の出立まで暫く時間があるため、久しぶりに本局の友達と会おうかと考えていたが、呼び出そうとした友人の誰もが現在作戦任務中で出払っているらしく、仕方なく自分の艦がドックの技術者達によってメンテナンスを受けている様子を見学に来たのである。
先程、ラーバナ型はアースラ型に比べ幾分小さいと言ったが、それは即ち戦力が劣るのかと言われればそういうわけではなかった。
むしろ、アースラ型には一門しか搭載されていなかった超重力砲アルカンシェルが合計二門に追加されている所を見ると、この間は決戦兵器としての運用を主眼に開発されたものだと言うことがよく分かる。
更に言えば、基本武装も新型へと置き換わり、その総合火力(トータル・ファイア・パワー)は従来の1.4倍をたたき出すほどだ。それでいて必要な人員、乗組員の総数も前型より10%ほど低減され、少ない人員で動かせる艦はそのまま本局戦力の向上にも貢献しうる。
現在、ベースライン2を最新として徐々にアースラ型と世代交代をしつつあるが、それが全域に行き渡るまでは最低でもあと3年は時間が必要だと言われている。
試作の段階からラーバナ型とは付き合ってきていたフェイトにしてみれば、これは初めて与えられた艦であるため、アースラ型が徐々にその姿を消して行っているということにはあまり過敏にはならなかった。
ただ一つ、幼い頃にお世話になった、母が指揮を執っていた艦アースラが解体された時にはさすがにあふれ出る涙を止めることは出来なかったが、それも既に昔の話となった。
完全自動化された船体ドックには物資の補給に奔走する先任下士官以外には殆ど人の姿が見えない。まるで節の多い枝のような様相をする多自由度多用途マニピュレートシステムが行き交うドックはどこか簡素な箱庭のように見え、フェイトは少しだけ肩を振るわせた。
「テスタロッサ・ハラオウン先輩、ですか?」
だから、フェイトは背後から近づく懐かしい声に少し驚いて振り向いた。
「やっぱりそうでしたか。お久しぶりです。私のことは覚えていらっしゃいますか?」
その丁寧な物腰、とうてい年下とは思えないほどの落ち着いた口調に、その知性を醸し出す縁なしのメガネ、そしてこざっぱりとまとめられたブラウンの髪。それは、それこそ久しぶりに出会うフェイトの後輩の男、アグリゲット・シェイカーだった。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪