りりなの midnight Circus
その概念は、素粒子内に存在する多次元管、一般には超弦物質(超ひも理論によって導き出される概念)を励起させその内にある超次元をむき出しにすることで多次元においても存在できるようにした概念物質を利用しているのだ。
超弦物質を励起させ、それを縮退する事でその状態を対象化、安定化させ、それを波動として放出し超次元空間へ投げ出すことで船体を含む4次元空間は反力を得る。この超弦励起縮退波動航法、この発見者、エリオット・ワグナーの名前にちなんでワグナー航法と呼ばれる航法により人類は無限に広がる時空間の海へと旅立つことが出来たのだ。
フェイトは作動音を奏でる船体のノズルに暫く目をやり、その点検が終了し船体全部が一時休眠に入ったところを見計らい、口を開いた。
「アグリゲットは、今なにを?」
彼女は少し前まで自分の補佐官をしていた彼の現在を知りたくなった。
「ええ、今は陸にいます。特務機動中隊と言えばおわかりでしょうか?」
フェイトはその名前を聞き、「ああ」と頷いた。
「はやてがお手伝いした部隊ね」
機動六課解散後、部隊長の職務から離れた彼女は確か、新部隊構想の実現化を補佐する仕事を始めたとフェイトは聞かされていた。
はやてならこれからもずっと優秀な指揮官としてやっていけるのにとフェイトは思ったが、はやては機動六課での経験から自分の未熟さを思い知り、暫く離れることにしたと言うらしい。
「はい。そこの副司令などを務めています」
「副司令か。君なら上手くしているだろうね」
フェイトは、彼を補佐官にしていた頃を思い出していた。寡黙だが誠実、無口だが行動力は確か。例えどんなに過酷で無茶な要求でも、まるでどこぞに吹く春の風とばかりに涼しい顔をして出て行き、気がつくといつの間にかそのすべてを実現して帰ってくる。
その間に何があったのか、それが語られることはなかった。
フェイトは、そんな彼を心強く思いながらもその奥の見えない彼をどこか恐ろしく感じた時もあった。
「陸は初めてですから、毎日あたふたとしていますよ。久しぶりにここに戻ってきて帰ってホッとしているような塩梅です」
寡黙だが、人当たりの良いその人格は変わっていないようだ。フェイトは安心すると、自分の通信機がなっていることに気がついた。
「テスタロッサ・ハラオウンです。ああ、シャーリー。うん、分かった。すぐ行く」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪