りりなの midnight Circus
そして、同時に気がついていた。彼は今彼本来の戦い方をしていない。ここに来る前の少しの間、なのははエルンストの本当の訓練を見ていた。あの見事としか言いようのない狙撃技術。もしも彼があの戦い方をしていればあのガジェットももっと的確に速やかに排除できたかも知れないのだ。
なのはには彼がなぜ、その技術を封印しているのかが分からなかった。それに、何故か問いただせなかった。
(上官としては多分、失格なんだろうな。だけど、これだけは不用意に聞いちゃいけない気もするし)
すこしやきもきし始めたなのははそれを発散させるべく少しだけ飛行速度を上げた。
「周辺に敵影無し、安全を確認」
エルンストは静かにそう告げた。
「了解。このまま真っ直ぐ飛んで帰ろう」
「だな、あいつ等も待ち遠しくしてることだしな」
ヴィータは待機所から身を乗り出して彼らの帰還を待つ者達を見て少し得意げな笑みを浮かべた。
これは、三人の訓練と言うよりは、訓練を受けている若手に対するお手本という雰囲気の方が高いとなのはは感じていた。だから、CP、A分隊隊長朱鷺守棋理はわざと過酷な状況で戦わせたのだろう。
そうでなければ、単なる嫌がらせか新人虐めの一環か。どちらにせよ、自分たちには悪くない結果だとなのはは思った。
「さすが管理局のエース・オブ・エースに紅衣の騎士。よく、あの状況で200体ものガジェットを殲滅できたな。しかも、40分もしないうちに」
朱鷺守棋理はデバイスシステムの一部である黒眼鏡を外しながら感嘆の声を上げた。彼のその身を包んでいるバリアジャケットらしい衣服は、黒いロングコートに黒のシャッポ、それに黒眼鏡と着たらどこの禁酒法時代のギャングだと言いたくなる様相だった。
なのはは最初に彼の紹介にあずかった時、どこか怖そうな人だなと思ったが、暫くその人柄を見ている内にどこかユーモラスで親しみの持てる人物だと評価を改めていた。
エルンストは彼を、軽そうな男だ、だが強い、と評価していた。実際この戦闘訓練では、彼はデバイスとバリアジャケットをオープンはしているものの、戦闘にはもっぱら指示とその後の処理を行うだけで参加はしていなかった。
彼の持つデバイス、【ナイトホーク】と哨戒されたそのナイフ型デバイスを見てエルンストは、相手にするには最もやりにくい手合いだと直感した。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪