りりなの midnight Circus
その武器からおそらく彼は超近距離による高速度高機動戦闘を主体にしたバトルスタイルをとるはずだ。本来、遠距離狙撃を生業とするエルンストが、棋理のバトルフィールドに捉えられた場合なすすべもなく切り崩されるだろうと予想した。
対策を立てるにしても一度この相手の戦闘を実際に見てみなければならない。それが最初で最後の手合いとならないことを祈り、エルンストは彼の評価に耳を傾けた。
「あの状況下の戦闘としては正にお手本とするべきなほど洗練されていた。お前等も今の戦闘データをよく吟味し自分に応用の出来る部分はどんどん応用して技術を盗め。特にこの二人の戦闘を見られる機会なんてそんなにないわけだからな」
それはエルンスト達に対する評価と言うより、若手に対する助言だった。
やはり、訓練と言うよりは手本を期待しされていたのだなとなのはは自分の予想の的中を知り、同時にあの状況でエルンストの支援がなかったらどうなっていただろう、と密かに戦々恐々としていた。
「では、少し長くなったが今日の訓練は終了だ。各自通常業務に戻れ。敬礼はいい。解散」
棋理のそこ言葉に真剣に耳を傾けていた4人の若手は、「ありがとうございました」と言ってすぐさまデバイスの保管庫へと駆け足で向かっていった。
その去り際、レイリアと名乗った隊員がちらっとエルンストの方を見たような気がしたが、それを確かめるまもなく彼は駆け去っていった。
「ふう、さてと」
棋理は呟くと、自身のデバイスをオフにしてその二本のナイフに黒いコート、黒いシャッポ、黒眼鏡をオイルライターの形をした待機状態に戻した。
だが、それは単なる見た目だけではなく本当にライターの機能まで付加させてある様子で、彼はすぐさま懐から紙煙草を取り出すとなのは達の見ている前でそれを吹かし始めた。
機動中隊の外周は別に禁煙になっているわけではないが、ここまであからさまに煙草を吸う人間も珍しい。
「悪いね。これがないとどうも気分が調子が戻らなくて。一種の中毒だなこれは」
彼はそれだけ口にするととりあえず一本吸い終わるまでなにも話さず、吸い終わったそれを携帯灰皿に捨てると改めて三人に向き直った。
「失礼。ご苦労だったな、お三方。結構疲れただろう?」
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪