りりなの midnight Circus
結局ヴィータはいつも飲んでいるホットミルクにした様子で、暖かな湯気の上がるそれを両手で抱えるように席に着いた。
「ま、この際だ。我慢してくれ」
棋理はそういうと呼んでいた新聞をたたみ机に置いた。少しの間放っておいた珈琲は若干ぬるくなっていたが、その香ばしさはまだ抜けていなかった。
「何か、面白い記事はありましたか?」
猫舌なのだろうか、レイリアは珈琲の熱さに少し眉をしかめながらすするようにそれをゆっくりと口にする。
「別に。最近、株価が下落方向だとか、国の借金が増える一方だとか、周辺諸国とのいざこざがそろそろ表面化しそうだとか。変わり映えはしねぇな」
こういう新聞は、どちらかというと暗い話題ばかりを記事にしたがる傾向がある。嫌な話題なんてものはそれこそ嫌でも目につくわけだから、こう言うところではむしろ愉快な話題に主眼を置いて欲しいものだと棋理は考えるが、他人の成功話なんてつらつらと書かれても面白いどころかだんだん腹が立ってくるだけかと思い直した。
「時空世界もいろいろ面倒になってきてんだな。まあ、あたし等にお呼びがかからないだけましか」
ヴィータは相変わらずのつまらなさそうな雰囲気で足をブラブラとさせていた。
「実際、楽しい話題なんてぱっとは思いつきませんしね」
正直なところ、レイリアも最近の状況に倦怠感を感じていたところだった。いや、彼だけではない。機動中隊や管理局全体にその雰囲気が広がりつつある現状にレイリアは少しだけ危機感を感じてもいる。
「そろそろここいらででかい事件が起こりそうな気がする。あんたもそうは思わないか? ヴィータ二尉」
棋理はヴィータに水を向けるが、ヴィータは鼻を鳴らして、
「だったら、むしろ好都合じゃねぇか。どうも最近身体がなまってしかたがねぇ。おっきな事件が起こるってんなら堂々相手をしてやるよ」
やる気十分、どんと来いと言わんばかりに口をしめらせた。
さすがに歴戦の勇士は言うことが違うなとレイリアは思い、
「いや、実際起こってくれると困るわけですけどね。僕達みたいな人間はむしろ暇な方が良いですよ」
「ま、そうだな。お前も言うようになった」
棋理は、普段はお気楽に過ごしているレイリアのその言葉に頷いた。
ヴィータは、悠長なこといってんぜ、とその話題に興味を示さず、先程カフェの入り口に姿を見せたシグナムに手を振った。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪