りりなの midnight Circus
「ヴィータ、ここにいたのか」
シグナムは少し身体を動かしていたのか、その額には僅かながら汗を浮かべていた。
「シグナムは、自主訓練か?」
ヴィータは隣の席に彼女を薦めた。
「うむ、皇磨陸曹長と少し打ち合っていた。なかなか悪くない仕合だった」
シグナムは日本茶を注文すると、しみじみと先程までの剣戟を思い返しゆっくりと頷く。
「そうか、|B分隊(うち)の副長が世話になったな。ところで、どうだ? あいつの戦力は」
棋理は、B分隊の副分隊長である彼の様子を思い、それをシグナムに訪ねた。同じ近接戦闘を生業とする棋理と彼だったが、相手を翻弄しその隙を突いて攻撃を加える棋理とは違い、彼は実に真っ直ぐと相手と向き合い戦う。
本来なら、彼を指導する立場にあるのは棋理だったがその相違によりシグナムに任せている状況なのだ。
皇磨御剣。たたき上げの陸士である彼は、機動中隊の武装分隊の中では最年長ではあるが、その経験に裏打ちされた思考力と何よりたぐいまれな柔軟性、そして幼少より続ける剣術の腕は中隊でも一目置かれる存在だ。
同じく剣術を志すシグナムとは何かと気が合う様子で、このようにお互いの暇を見つけては剣の仕合を行っているという様子だった。
「素晴らしく良くなっている。もう後数週間もしないうちに、私も一本取とられてしまうだろう」
それでもまだ、彼はシグナムから一本を取った事はない様子だが、彼女の言葉から推察するとその技は更に磨きがかけられていると言うことだろう。
「そいつは楽しみだな」
棋理はそういうと、冷めてしまった珈琲を一気に飲み干した。
「なあ、レイリア。そういえばだが、お前、AWD(アーマード・ウェポン・デバイス社)に報告書は上げたのか?」
棋理はレイリアが中隊とは別に何か任務を持っていることを思い出した。
「ええ、昨日の通常業務中に。既に送信済です」
棋理はその答えに「なるほど」と答え、近くを通り過ぎた給仕に珈琲の代わりにアレンジティーを注文した。
「新型の具合はどうだ? 何でも新たなカートリッジシステムだと聞いていたが」
シグナムもその話には興味を持ったのか、私物の湯飲みを片手に聞いた。
「そうですね。今の所は一長一短というところですね」
棋理は「詳しく話せ」といって先を促した。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪