りりなの midnight Circus
「ガルメデスですか。最近やっかいごとを抱えていると噂されていますね」
レイリア。
「そうだな。相次ぐ不況とテロの活発化。政治も力をなくし、軍部が力を持ちつつあるとのことらしい」
「いずれクーデターが起こるかも知れませんね」
「そのための会合なのだろう。邪推はしたくないがな」
「では、私はこれで失礼するよ。今日はアグリゲットがいる。中隊の指令は彼に任せているから報告はあいつにしてくれ」
「へえ、副部隊長が。部隊長が不在で、副部隊長がいるとなると珍しいな」
棋理
「僕もそう思うよ、朱鷺守分隊長。では」
「お疲れ様です。南雲部隊長」
最後ばかりは敬礼を交わし、南雲はカフェを後にした。
「さて、俺たちはせっかくの暇なひとときを堪能するか。飲み物の追加がいる奴は?」
棋理がそういったところで、機動中隊全域にアラームが響き渡った。
給仕を呼ぼうとして手を挙げた棋理はその姿のまま固まり、続くアナウンスに耳を向けた。
『告げる、こちら副部隊長アグリゲット・シェイカー。現在、ミッド・チルダ地上にて非常警戒態勢が発令された。戦闘分隊各隊は大至急戦闘準備を。陸士部隊より応援要請だ。直ちに輸送機へ向かえ。繰り返す、現在――』
非常警戒態勢、応援要請。その二つの言葉に反応し、そこにいた全員が通信機を開くことなく立ち上がり、急いでカフェを後にする。
「支払いはこれで頼む」
席から立ち上がった棋理は怒鳴ると、財布代わりのウォレットカードをレジスター向かって、まるでカードマジックのように放り投げた。
レジスターを任されていた店員は手慣れた手つきで数メートルの距離を飛来するカードを受け取ると、手早くそれを機械に通し勘定を済ませた。
「ご利用ありがとうございます。またのご来店を!! それと御武運を祈ります」
走り去ろうとする棋理に向かって、渡された時と同じようにそれを投げ返すと、その店員は見事な直立で敬礼を投げかけた。
「ありがとうよ!!」
走りながらそれを空中で受け取り、ポケットにしまい込んだ棋理はデバイス保管庫に疾走する部下達を追いかけた。
(レイリアはああいったが、やっぱり俺はこの感触が一番いいな)
棋理はこみ上げてくる喜びにも似た爽快感を内に秘め、レイリアの後ろを走った。
***
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪