りりなの midnight Circus
実際、過去に起きた『時の庭園事件』や『闇の書事件』、『聖王のゆりかご事件』においてもその最たる原因はロストロギアにあるといっても過言ではない。時にはこの時空世界のありようを根底から覆すほどの力を持つもの。それが現在認識されているロストロギアの概要だった。
「厄介なことになった」
シグナムの重いつぶやきはそこにいる全員に暗い影を落とす。この中にいてロストロギアのためにその人生を狂わされたというものもけっして少なくはないのだ。
「まあ、ともあれ。俺達にとってはぬるい仕事だな」
その影を鼻息で吹き飛ばす勢いで、朱鷺守は言い放った。
「しかし、ロストロギアですよ?」
今となってはアリシアの後ろでたたずむ双子のリーファの弟、エリオンはその理知的な表情を崩さずに朱鷺守に目を向けた。
「だからどうした? 相手がロストロギアだろうが、次元災害だろうが。俺達のやることには変わりはないだろうが。それとも、怖気づいたか? 栄えある機動中隊の隊員が、高々武装テロリストごときチンピラどもに」
朱鷺守はまるで挑発するような不敵な笑みでエリオンを見下ろした。
「エリィを馬鹿にしないで。怖気づくなんてあるわけないじゃない。そうでしょ」
その視線からエリオンをかばうようにアリシアが朱鷺守の前に立ちふさがった。
「そうだね、アリス。僕達は、そのために練習を重ねてきたんだから」
「そうよ、あたしとエリィなら何だってできるわ」
アリシアはエリオンの手を硬く握り締めた。その手が震えていることにエリオンは気がついていたが、それを強く握り返すことで彼女に答えた。
(ロストロギアなんかに僕達は負けない)
エリオンはそう思い、その思いはアリシアにも伝わった。
(そうよ、もうパパとママみたいなことはさせないし起こさせない)
双子のリーファもまた、ロストロギアに関連する時空犯罪で両親を失った者の中の二人だった。
そんな二人の様子に、中隊の面々も励まされた。小さな双子がこんなにも懸命になって理不尽と戦おうとしている、それなら自分達が立ち上がらなくてどうする。
シグナムはそんな二人の頭に手を置き、
「よくほえた。それこそ騎士の気概だ」
といって全員に目を向けた。
「お前達、準備は万端か?」
全員沈黙と首頷をもってそれに答えた。
作品名:りりなの midnight Circus 作家名:柳沢紀雪