picaresque pirstes
第2章 黄金の国
「まさか、こんな手にひっかかってくれるとはね…」
ドレスを脱ぎ捨て、スペインのものだった新しい正絹のシャツに袖を通しながら、イギリスは喉を鳴らした。目の前には服をはがれ、後ろ手に縛り上げられたスペインが転がっている。
その腹をつま先でつつくと、イギリスはスペインに視線を合わせた。
「安心しろよ。今日はお前と本気でやりあう気はないんだ。宝を全部積み込んだら、開放してやるさ」
「…この腐れ外道。女々しい手管使いくさって! 女装してたことしゃべくってやるから、覚えときいや!」
自分に比べるとずっと浅黒い肌が怒気に染まるのをにやにやと眺め、高い鼻をつま先で軽く押す。
「はっ。負け犬が生意気な口きくなぁ。無駄口きけねえように、お前の顎を踏み潰してやってもいいんだぜ? 分かったら、その鬱陶しい口を閉じておとなしくしてろよ。せいぜい俺の神経を逆なでしないようにな」
行きがけの駄賃のようにその頭を蹴り飛ばしたイギリスは、部下達に声をかけた。
「めぼしいものは集めたか?」
「アイ、キャプテン。あとは船長室の地図や本、そんなもんだけですね。俺達みたいな無学なもんにゃさっぱりでして」
「案内しろ。俺が選ぶ。今ちょっとやりすぎちまったから、しばらくは起きないと思うが、万が一もある。二人ついて見張りしろ」
そう指示をだして、船尾にある船長の部屋に向かったイギリスは書籍や海図を一冊づつ手に取り中身を確認していった。金銀財宝も重要な収入になるが、知的財産とでもいうのだろうか。書籍や海図は世界の海を制覇するために、なくてはならないものなのだ。
そして、イギリスは一枚の海図を見つけた。支那よりもさらに東にある島国の周辺の海図だ。
「ジャパン…ね。面白い。確か、オランダのやつが貿易を始めるだのなんだの言っていた気がするな」
ジャパンー日本はマルコポーロによってもたらされた東方見聞録でヨーロッパ中にその噂が広まった国だ。黄金の国、謎のベールに包まれた東洋の神秘。
どの噂をとっても、イギリスの興味と冒険心をくすぐる噂ばかりで、機会さえあれば行ってみたいと思っていた島だ。
「次の行き先が決まったぞ。荷物を積み込んでトルトゥーガで一休みしたら、黄金の島に出発する。いいな」
そう宣言したイギリスは、これからしばらくの間世話になるであろう海図を綺麗にまるめ、引き上げを指示した。
作品名:picaresque pirstes 作家名:みずーり