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きくちしげか
きくちしげか
novelistID. 8592
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甘い恋などどこにもなくて

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玉子焼き食ったらやらせてくれるとかそんな嬉しい事考えてくれてるのかぃ。
ああ、シャイだねぇ新八さんは。よし、今度から玉子焼きが入ってたらヤルって合図にするぜぃ。
「姉御の玉子焼きは最高アル!親戚になるなら一度は作り方を教わらないといけないアル!」
ちっ。将を射んとせば、まず馬を射よ、ってことかぃ。
「食ってやるよ。その玉子焼き」
「おおおお沖田さん!やややめたほうが!!」
「なんでい、新八さんのお姉様の仕込みなら食わねえ訳にはいかねえだろ。」
どうだ、俺だって。
「ああ、姉御の玉子焼きは宇宙一ネ!」
「色んな意味で・・・」

とりあえず新八さんの隣はキープしつつ。
「沖田さん、あんまりくっつくと暑いんですけど・・・」
何でい照れちゃって。
「・・・腕は組まないで下さい・・・」
恥ずかしがる新八さんもいいねえ。
「・・・すいませんお尻はなでないで下さい・・・」
ああ、薄いなあ、ケツ。
ぎゃああああああっ
「ああ!定春!噛んだら痛いって!!!」
あのばかでかい犬、俺の手を・・・
「大丈夫ですか?沖田さん!っていうか無言ですけど、そんなに痛かったんですか?」
かろうじて声は出さなかったけどな。
「あーあ、もうダメネ。うちに帰ってネンネするといいネ」
こいつ絶対・・・・
「っていうか僕のお尻も噛まれたんだけど、神楽ちゃん」
「大丈夫かい?新八さん、こんな物騒な犬と一緒じゃあ弁当も食えねえよな」
カエレわかめ女。そのばかでかい犬連れて。
「ああ、いや大丈夫だよ、ね神楽ちゃん」
「定春はアタイの言う事聞いて噛んだアル」
「・・・僕のお尻を?」
「細かい事は気にするな。少年よ」
「気にするわっ!!」
ちっ、すっかりわかめ女に主導権を取られた。
「新八さん大丈夫ですかい?」
「あ、ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。沖田さんこそ」
よしっ。普段悪ガキが見せるさりげない優しさ作戦成功。新八さんの顔がほんのり赤く染まってるぜぃ。
いや、あおく見えるか。ああ、ケツから血が出てるからねぇ。
まあ俺の時には気をつけてやるよ。(ピー)から血なんか出ねえ様に。

「お弁当にしましょうか」
軽いジャブを織り交ぜつつわかめ女と手合わせをしていると(何故そうなったかはもう忘れちまった)新八さんが声をかけてくれた。
「ああ、そうですね。良い運動も出来たし」
「・・・これ、また僕が頭を下げて回るんですね」
公園のベンチは相変わらずやわでぃ。
新八さんが芝生にシートを広げて、お弁当を並べて行く。しかしなんでい、白の面積の多いこと!しかもご飯がそのまま入ってやがる。
何だよあの瓶?眼鏡かけたオヤジの絵と「ごはんだべえ」って書いてあるぜ?
「はい、神楽ちゃん」
重箱3段にご飯がみっちり入ってやがる。
「やっぱり新八の開ける「ごはんだべえ」はうまいネ!」
・・・おいおい、全然手づくりじゃネエじゃねえか。
「神楽ちゃん、おかずも食べようね」
わかめ女に笑いかける新八さんは気に入らねえが、すぐにこちらを向いて別の弁当箱を開けたのでまあ良しとしよう。にやけるな。俺。男はクールな方がもてるんだぜ。
「はい、沖田さん」
もう一つのお重にはキレイに並べられたおかず。
俺もう鼻血でそう。
「こっちが僕が作った・・・」
玉子焼きだねぇ
「あああ!!!!違う!」
一口。新八さんの愛を。
「そっちは!」
ふぁ?
玉子焼きの色と形をした物体を口に入れた瞬間
わかめ女の口からわかめが伸びて俺の首に巻き付いた所で
記憶がなくなった。
「おきたさーーーーん!!!」


やだなー
僕だって、だますのとかは嫌ですけど。
まあ、死活問題っていうヤツですか?
うんー高給取りだし。
何でか知らないけど、色々とおごってくれたりするし。
世間では色々言われてるけどそんなに悪い人でもないし。

けど。

「なーべ・なーべ!!!!」
「鍋の季節ネ!」
チンチンと朝からご飯茶碗を箸で叩く。まったく、だからこの家は貧乏神が住み着くんだって。
「知らないの?それって、貧乏神を呼ぶ太鼓なんだよ」
「え」
「マジでか?!」
おとなしくなったよ。神楽ちゃんはともかく、銀さんまでそんなこと信じるなよ。
でもおかげで朝の食卓は静けさを取り戻したみたいだ。
「新八ぃ今日は鍋にするネ」
ああ、急に寒くなったから鍋も良いね。
「うん。じゃあ、今日は買い物に・・」
「タンパク質は」

「まあ、鶏肉かな」
「魚はいやアル。豚でもいいネ」
ええ
この人達の言っている言葉がヨクワカラナーイ。
「ねえ、新ちゃん、質より量でいいからさぁーなるべくたくさんね、あ、あのこの前食べた肉団子でもい」
ぎゅっ
「ぐへっっ」
「タンパク質を買う金があると思ってんのかぁ?あぁん」
あ、何か口から黒いのが出てきちゃった。
「あ、や、新ちゃん・・・ぐるじい・・・」
首を絞めた後僕は銀さんの鼻に指を入れかけていた。
ゼイゼイ言ってる銀さんの声にはっと我に返ったよ。あははつっこみが先だよね。反省反省。とりあえず一息ついて。
「うちには、動物性タンパク質を買う余裕はありません。ちなみに一番鍋を占めるのはご厚意でもらうくず葉と、あとは小麦粉を練った物です」
『ええええええーーーーーーーー』
ハモってる。僕だってハモりたいよ。
「だって、お金ないですもん」
二人でうんうんうなっててもお金は入ってこないよ。ちゃんと仕事しないと。
「日雇いのバイトでもみつけま・・・」
「あのドエス呼べ」
はぁ?
「ドエスって、おき・・」
「ドエスはドエスだ!」
銀さんの目が今きらっと光ったよ?しかも神楽ちゃんがすごい顔をして銀さんを見てる、っていうかなんか芝居がかった動きで寸劇が始まりそうですけど・・・。
「・・・銀ちゃん・・・アタイはいやアル」
銀さんは額に手をやってあっち向いた。
「贅沢言ってる場合じゃねえ。緊急避難だ」
「けど!」
おお、神楽ちゃんなんか女優さんみたい、って見入ってる場合じゃないけど。あ、まだ続くみたいだからとりあえず見よう。
「いいか、俺たちはここ数日タンパク質らしいタンパク質を摂取してない」
うんうん。神楽ちゃんが唇の端を噛んで斜め下を向いたよ。
「新八。あいつを鍋にご招待するんだ。持ち寄りって事で」
はぁ?
「不本意ながら許可するネ。まあ貰う物だけ貰ってポイだけどナ!」
いひひひひって、二人で腕組んで笑ってるけど、無理だって。
「いけ!新八!高給取りを手玉に取ってやれ!」
僕が誘って来るような人じゃないのに。だって、真選組の一番隊隊長・・・。

「いいですぜ」
おおおい、拒否しろ!拒否!
「はあ、あの。うちはその。あれなので」
あまりにあっさり話に乗ってきたので、何が目的か一瞬分からなくなった。
「何か持って行きやすぜ」
ええええ?!
「あ、いいんですか?!」
「もちろんでさぁ。そうだねぇ、普段なかなか食べられないヤツを持って行ってあげやすぜぃ」
え、それって!
「は、あ、ありがとうございます!じゃあ、いつ」
「夜に。準備してきやすから。万事屋でいいんですかねぇ」
や、いいのか?いいのか?!
「は、はい、もちろん。え、っていうか良いんですか?」
「もちろんでさぁ」
沖田さんの笑顔がまぶしい。まるで菩薩のようだ。