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律姫 -ritsuki-
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騒動の種は其処に有り

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時は少しだけ戻る。

「善法寺先輩、終わりましたー」
放課後の委員会活動の時間、本日の保健委員の活動は気候が良いため、使用済みの布や包帯の洗濯。
洗濯場所からは、たまたま塀を修繕中の用具委員長が目に入った。
「あ、留さ・・・」
と呼び止めようとしたときに、丁度彼の後輩である富松作兵衛が留三郎に声をかけた。
こうなるともう、絶対に気付いてもらえない。
誰よりも、後輩が一番なんだからなあ・・・。
そう一人ごちに呟いたのを聞く者は誰もいなかった。
そのまま何となしに様子を見ていると富松が留三郎へ抱きつく。
「え・・・」
「善法寺先輩―?」
保険委員の後輩が呼んでいる。
「あ、ごめん、いま行くよ」
洗濯道具を持って、保健室へ引き上げた。
そうなると、もう全員ですることもなかったので委員会を解散して、薬の在庫の整理をしていたときのこと。保健室の扉が開く。
「伊作、いるかー?」
「留さん!」
姿を見せたのは用具委員長・・・とその後輩、富松作兵衛。
「なんか、様子が変なんだよなあ。熱ないかみてやってくれないか」
と連れてきた後輩を留三郎が前へ押し出すが、その本人が前へ出てこない。
「食満先輩、俺、熱なんかないですよっ」
と言いながら、留三郎の腕を引く。
「でも一応、な?」
留三郎にそういわれると、渋々伊作の前に座った。
「じゃあ、ちょっと見せてもらうね」
額に手を当て、脈をとるが、不調があるようには見えない。
「うーん、熱はないと思うけど・・」
「そうか?」
「でも、熱が出る前兆だったりすることもあるから、今日は早く寝たほうがいいかもね」
「わかりました。ありがとうございます」
素直だが素っ気無い返事を返して、作兵衛が立ち上がった。
「作、今日は部屋に戻って休んでいいぞ」
「いえ、そういうわけには。いくら先輩でも1年坊主とだけじゃ、補修終らないですよ」
「確かにな・・。じゃあ早めにやっちまうか」
「はい」
留三郎も立ち上がった。
「じゃあ、伊作。またな」
「うん、頑張って」
と笑顔で送り出そうとしたとき・・・富松がちらっとこちらを見た気がした。
そして甘えるように留三郎の腕に自分の腕をからめ、保健室を出て行った。
「・・・なにあれ」
後輩相手とはいえ、若干腹立たしい。
二人を見送った後、もう一度保健室の扉が開いた。今度は留三郎ひとりだけ。
「伊作、なんか作のやつ、今日は妙に甘えたがりなんだ。熱出る前兆に違いないからあとで軽い解熱剤みたいなやつ用意してもらえるか?」
「うん、いちおう解熱剤は用意しておくよ」
「ありがとな。まあでも、一緒に作業したいって言われたり、もっと一緒にいたいとか言われるのは、普段言いそうにないだけに嬉しいけどな。じゃ、頼んだ」
そういって、いそいそと保健室を出て行った。
「・・・一緒に作業したい、とか、もっと一緒にいたい、とか・・・それって・・・留さんを独占したいってこと?・・・まさか、ね・・・」




「まさか、なわけがないだろう。熱もないのに様子が変。しかも留三郎への独占欲爆発。お前の薬のせい以外のなにものでもないんじゃないか?」
「あ、やっぱ仙蔵もそう思う?」
放課後のい組部屋である。
委員会活動のなかったい組の二人が部屋でくつろいでいるところに相談に来た。
といっても、伊作と話しているのは仙蔵だけで、文次郎は自分の文机へ向かい勉強に励んでいる。
「まあ、どういう経緯で富松の手に入ったかはさておき、好きな相手以外にはきかないんじゃなかったのか?まさか富松は留三郎狙いか?」
「・・・たぶん、好きの種類は問わないんだよね・・・。だから尊敬とか友だちの好きでも効いちゃうんだと思う」
「なんでそんな面倒なことをわざわざ?」
「もし留さんが、万が一、まさかのまさかだけど、僕にそういう感情もってなくて効かなかったら困るなって思って・・・」
「なんだ、留三郎に使うつもりだったのか」
「う・・・。う、上手く言ったら仙蔵にもわけてあげるよ?」
「待て、それはやめろ」
自分に火の粉が降りかかりそうだとおもった文次郎が口を出してきた。
「なんだ、私が薬を分けてもらうことをお前に口出しされるいわれはないぞ」
「・・・それは、そうだが・・。そもそも、伊作と留三郎にそんな薬必要ないだろう!よって生産は中止だ!」
「必要あるから作ったんだよ」
そして伊作から、留三郎の一日が語られる。
朝は朝トレ、それから授業、昼ごはんはみんなで、夕方は委員会活動、夜は夜トレ、休みの日だって、委員会活動とか用具の子たちと遊びに行くとかで、全く相手にしてもらえない。
「しかも、僕が夜遅くまで帰らなくても、休日に誰かと二人で出かけてきたっていっても、ぜんっぜん平気な顔してるなんてありえなくない!?もしかして、僕って留三郎にそんなに愛されてないのかも・・・とか思っちゃったりとかしてね・・・」
その後もぐだぐだと留三郎への不満を語り続ける伊作をよそに、い組の二人は矢羽根で会話を始める。
『無自覚か』
『無自覚だな』
『あんだけ普段ひとまえでイチャついておいて、よくもそんなことが言えたもんだ』
『でもまあ面白そうだから、クビを突っ込んでみるか。なあ文次郎』
『いや・・それは・・』
『私がやると言ったんだから協力は惜しまんだろうな、文次郎』
『・・・』
『わかればいいんだ』
文次郎が何も言わないということは肯定と同意というのがい組の常識である。

「つまり、留さんにもっとかまってほしいっていうか、愛されてるっていうか、そういうのを確かめたかったんだよねー・・・」
と、伊作の話の区切りがよくなったところで。
「なんだ、伊作。そんなことなら薬なんぞに頼らずとも協力は惜しまんぞ」
「え、ほんと?」
「いい考えがあるんだが、のるか?」
「仙蔵の考えることって外れなさそうだよね。聞かせて」
「実は、明日だが・・・私たちは5年生の授業に実演講師としていくことになっている、その役目を代わってやろう」
「ちょ、待て。仙蔵。代わるって、まさか・・・」
「もちろん、私と伊作が交代だ。留三郎相手なら、私が一緒よりもお前が一緒の方が効果的に決まってるだろう」
「俺を巻き込むな!・・・それおしゃべりな5年の奴らから広まってあいつに殴られるのは俺じゃないのか!?」
「ほう、その役割を私に代われと?」
「・・・・」
「理解が早くて結構なことだ」
「ちょっとまってよ、二人とも。全然話が見えないんだけど」
「そうだな、伊作には言っていなかったが、明日5年の授業で6年生による実演をせねばならん。まあその内容はだな、片方が女装でやるあれだ」
「・・・まさか」
「お前が文次郎とその実演をする。おしゃべりな5年のことだから、きっと尾ひれが付き捲ってその日のうちに留三郎の耳に入るだろう」
「おい・・・」
「うん、それで?」
「その噂が耳に入った留三郎はどうするかで伊作に対する愛がわかるってもんだろう?なんなら明日の夜は部屋を替わってやるぞ、伊作」
「おいおいおいおい・・・」
「なんだ、なんか文句があるのか?」
「・・・・俺を巻き込むなと」
「どうだ伊作」
「・・・うーん、ありがたいけど、そこまでしてもらうのは文次郎にも悪いし・・・」