ティル・ナギ
記憶喪失?2
一方ナギは部屋から出るとそのまま外に出て湖畔まで行き、木陰に腰を下ろしてぼんやり湖を眺めていた。
そこにカミューが通りかかり声をかけてきた。
カミューもすぐにナギの様子をいぶかしんだ。
「どうなさったんです?いつもと何か違いますが?でもいつものナギ様もおかわいらしいが、今日のナギ様はまた初々しい。」
カミューはナギの手をとり、目を見つめながら近づけた顔でそう言った。
ナギはきょとんとしたままである。
「そのご様子は本当に愛くるしいですけど、なんだか別人のようで私はとても心配です。」
とった手を自分の口につけ、相変わらずナギを見つめたまま言った。
「そう・・・ですか、僕、いつもと違うんですね。それで皆何か変だったんだ。だからさっきもルックやティルがあんな事言ってたんだ。心配してくれてたんですね。」
「あんな事、とは?」
「えーと、抱きついちゃだめ、とか好きって言っちゃだめ、とか側を離れちゃだめとか・・・」
「そうなんですか。でも私には抱きついて下さってもかまいませんよ?」
そう言ってカミューはナギをそっと抱きしめた。
「・・・でも本当にナギ様はどうなされたんでしょうね、何かございましたか・・・?」
耳元でそっとカミューは囁いた。
ナギはビクンとして言った。
「あっ・・・ん・・・きょ、今日階段から・・・落ちて・・・僕・・・怪我はしてないんですけど・・・多分その時からおかしいみたいで・・・」
「そうですか・・・。とりあえずお怪我はされなくて良かったです・・・。体もどこもなんともないですか・・・?なんなら私が見て差し上げましょうか?」
ずっと耳元で囁き続け、抱きしめている片方の手をナギの肩から腕へとそっと撫でた。
「んっ・・・い、いえ・・・大、丈夫・・・」
ナギは体をピクンとさせつつ途切れ途切れでそう答えた。
「ナギさ・・・」
「「ストープ!!そこまでっっっ」」
2人の目の前にいきなりティルとルックが現れた。
2人はびっくりしていたが、カミューの方は次第に青ざめていった。
「何、してるのかな?赤い騎士様は?」
笑顔なのにこの世のものとは思えないどす黒さでティルが問う。
ルックは早々にナギを引き離している。
「え、いや、その・・・」
「ちょっと旅に出ようか。お勧めツアーがあるんだ。逝こうか?」
「☆%△√♯※□$?」
「冥府」
黒いドームが現れ、カミューを包んでいく。
そうして辺りは静寂に包まれた。
「まあ、1週間程楽しんできてね。」
ぼそっと呟いたティルはナギとルックの元へ行った。
「ナギー、大丈夫ー?ヤなコトされてない?」
「え、あ、はい。何も・・・」
そう言いながらナギの顔はトロンとし、少し赤くなっている。
ティルとルックは顔を見合わせた。ルックが更に問い詰めた。
「ちょっと、ナギ、ほんとに何もされてない?」
「な、何にも・・・。えーと、ただ抱きしめられて・・・、それから耳元でお話されてました。あと、体が本当にどうもないか見てくれるって仰って下さって、やさしく肩を撫でてくれて・・・」
ナギはとりあえず先程の事を思い起こして言ってみた。
ティルとルックの心中は1つだった。
「「あの赤ヤロウー」」
と、ルックがふと我に返り聞いた。
「ところでナギ、僕らのそば離れちゃいけないって言ってたばかりだろ。どうして部屋から出たのさ。」
「え?なんだかお2人が仲良くお話に夢中になられてたので邪魔しないようにって・・・。ごめんなさい。」
そんなわけあるかー。2人はそれこそ仲良く同時に心中で突っ込んだ。
「でもこれで分かっただろ?2人でフラフラしてると嫌な思いするって。」
「え?嫌な思い?」
ナギは怪訝そうに言った。
ティルはへ?と唖然とした。ルックが言った。
「ちょっと、分かんないの?現にあの赤い奴に襲われかかってただろ?」
「??カミューは別に暴力なんて振るってませんよ?やさしい人ですよね?」
ルックは頭を抱えた。
ティルはナギの痛さに呆れを通りこして愛しさが湧いた。
「じゃあ僕はもっとやさしいよ?それこそ天にも昇る気持ちにしてあげるよ?」
「わあ、すごいですね。」
「ティル、あんた最低だよ・・・。あーもう、ナギはバカだし。やってられないよっ。」
ルックは渾身の力を振るいロッドで攻撃した。
ティルはヒラリと避けたが、油断、隙だらけの今のナギにはまず避けるという行動はなかった。
ナギにそれはクリティカルヒットし、そのままナギは沈み込んだ。