ティル・ナギ
記憶喪失?3
「え?ちょ、ナギ!?どっどうしたの?どっか痛いの?」
「う、うるさいっ。泣いてなんか、ひっく、泣いてないっ。」
「え、ちょ、泣かないで?ホントどうしちゃったの?」
真剣にティルは困った。
とりあえずナギを抱きしめて背中をポンポンとあやした。
ティルの肩に顔を埋めるような形のままナギは言った。
「泣いて、ないって、言って、んじゃんっ。」
ガチャッと音がしてルックが部屋の中から出てきた。
「ちょっとどうしたのさ、着いたのならさっさと入ってき・・・」
そしてその光景をみて唖然とした。
「え?ぶり返し・・・?」
「や、違うから。ルック、僕、もしかしたらナギ泣かせちゃったのかも・・・」
「違うってんだろっ、泣いてなんかないも・・・」
「とりあえず中に入りなよ。ナギ。」
ため息をついてナギの手をとり、ルックは部屋に促した。
中ではナギを見てギョッとしている軍師の姿が見えたが構わずそのままドアを閉め、ティルに聞いた。
「で?何したのさ?」
「ホント分かんないんだって。」
一連の流れをティルは説明した。
「・・・。・・・屈辱感的なもんで泣けてきたんじゃない?ティル、とりあえずあんた、もう帰りなよ。」
「えーっ、屈辱って・・・。男に抱きついて好きって言っちゃったから?それともまさか僕だから・・・?ってゆーかどちらでも僕こそ泣きたいよ?その上帰れってか。無理。」
「ったく。だったら僕の部屋にでもいってなよ。今は何となくあんたいない方がナギも落ち着くと思う。」
「わーん、あんなの言うんじゃなかった。ルックだって同じコトされてんのにィ。」
「バカだね。」
「う・・・。とりあえず部屋に行ってるよ・・・。後で様子教えてね。」
ティルはがっかりした様子で去って行った。
「ったくもう。なんで僕が・・・」
部屋に入ると慣れない事に対応しきれないシュウが目でルックに助けを求めていた。その横でナギがぐずぐずいっている。
「ほんと、なんで僕が・・・。・・・とりあえずさ、こんなだけどナギは治ってるから。ただまだちょっと情緒不安定みたいだし、今日はもう休ませたら?」
「そ、そうだな。ナギ殿。ゆっくりお休み下さい。ここ数日は特にこれといって動きもなさそうですし、2、3日ゆっくりされるといい。」
「だってさ。ほら、行くよ。」
「ひっく、わ、分かった。」
あからさまにホッとしているシュウを一睨みし、ルックはナギの手をつかんで部屋を出た。
「ちょっとしっかりしなよ。」
「だ、だってー。」
そのまま庭園へ連れて行った。
ナギの部屋に行けばナナミがいる可能性がある。
こんな状態のナギを連れて行ったら絶対煩い事この上ないだろう。
庭園は夜と言う事もあって誰もいなかった。
ホッとしてルックはナギをガーデン用の椅子に座らせた。
「なに泣いてんのさ。」
「だって・・・。俺、ティルに変なコト言ったりしたりしちゃった。もう恥ずかしくて情けなくって・・・。俺、もうティルに顔、合わせられないじゃん。」
「・・・。別にティルはまったく気にしてないだろ?」
「そんなの分かんないじゃんかー。だいたいティルが気にしなくても、俺が気にする・・・」
「ふぅー・・・。じゃあさ、それはなんでさ?」
「何が。」
「なんで恥ずかしくて情けない訳?」
「だってそうじゃん。俺男だよ?その男の俺が、女みたく・・・ティルに・・・」
「何気にしてんのさ。だれも君の事、女だって思ってるわけじゃないから。」
「・・・・・」
「それとも男の自分が、男相手にくっついてったのが気持ち悪いとか?」
「ちがッ・・・そんなんない。気持ち悪いってんなら、ティルのがそう思ってるよ・・・。」
いや、喜びのあまり、ばたばた振る尻尾でも見えそうな勢いでした。
ルックは思った。
「・・・別にそんな事でティルは君の事嫌がらないし、君だって女みたいって訳じゃないよ。」
「・・・・・。」
「だいたい男だって誰かに抱きついたり好きだって言ったりするだろ。なんでそれが女みたいになってしまうのさ。」
「・・・・。」
ナギはまた赤くなって俯いた。
「ティルもそんな事で君に愛想つかすなら、君が我に帰るまえにすでにいなくなってるよ。」
「・・・そう、かな・・・。」
「はあー。・・・僕だって、君に対して態度、変わってないだろ?」
「?うん。」
「君さ、僕にもさ、抱きついて大好きだって、言ったよ。」
「うっわー・・・ルックにも・・・?ほんと、俺、何してんだろ・・・。・・・・・。・・・あ、そーか。別に、あり、だよな。確かに。」
「は?」
少し考えて、ナギはニッコリした。